2021年05月24日

郷土料理|「伊勢うどん」 旅人の疲れを癒やし続けた、伊勢のソウルフード

もちもちでやわやわのうどんに濃いめのタレが絡んだ、伊勢を代表する郷土料理「伊勢うどん」。かつてはお伊勢参りの旅人を癒やす、地元だけで味わえるメニューでした。一度食べたら忘れられない、特徴ある「伊勢うどん」のおいしさを、その歴史とともにご紹介します。


もちもちでやわやわのうどんに濃いめのタレが絡んだ、伊勢を代表する郷土料理「伊勢うどん」。かつてはお伊勢参りの旅人を癒やす、地元だけで味わえるメニューでした。一度食べたら忘れられない、特徴ある「伊勢うどん」のおいしさを、その歴史とともにご紹介します。

 

伊勢うどんの歴史

今も昔も「お伊勢参り」と「伊勢うどん」の組み合わせは外せませんが、伊勢うどんの原型は江戸時代以前までさかのぼり、伊勢地域の農民の食事にあるとされています。のばす手間を省いた太いうどんに、味噌の上澄み(たまり)を少しかけ、刻みネギを加えただけのシンプルな食事です。

最初に伊勢の地に伊勢うどんのお店ができたのは、今から約360年前のこと。浦田町の橋本屋七代目によるといわれています。伊勢神宮を詣でるお伊勢参りは、江戸時代には「伊勢へ行きたい、伊勢路が見たい、せめて一生に一度でも」と歌われるほど、民衆にとってのあこがれ。多くの関所を通らねばならず、十分な宿泊施設もない時代において、人口の約1/5が伊勢を目指したというのですから、民衆の熱狂ぶりがうかがえます。

参拝客に供されたうどんの味は、たまりに出汁を加えて食べやすくしたもの。どんどん訪れる参拝客にすぐ提供できるよう、大きな釜で常にうどんがゆでられていて、必要な分を釜揚げしていました。伊勢うどんの極太麺は、ゆで時間が長くなっても気になりません。長旅で疲れた体に、やわらかく塩気のあるうどんは何よりのごちそうだったことでしょう。

伊勢うどんの特徴

初めて食べる方がまず驚くのはその麺の太さ。通常のうどん麺と比べると2倍近くの太さがある極太麺です。時間をかけて煮えた麺はやわらかくふわふわで、コシの強いうどんとは真逆の食感が楽しめます。

タレは黒っぽい茶色をしていますが、これはたまり醤油をベースにしているためで、見た目ほどの塩辛さはありません。むしろ甘みが強く、すき焼きのタレやかば焼きのタレを少ししょっぱくした、甘辛い味をイメージすると近いかもしれません。

基本の薬味はネギだけという、具のシンプルさも伊勢うどんの特徴です。麺を底からぐるりと混ぜて、少しのタレを全体に絡ませてからいただきます。やわらかい麺をそっと持ち上げると、ふんわりと甘い香りと出汁の香りが立ち上ってきて、なんとも食欲をそそる一品です。

今では、家庭でも作れるようにと、地元スーパーに伊勢うどんの麺とタレがおいてあります。メーカー違いの伊勢うどんがずらりと並んでいるので、伊勢地方に行ったらぜひスーパーに立ち寄ってみてください。郷土色が如実に現れていて、とても楽しい気分になります。

おうちで伊勢うどん(作り方のポイント)

 

伊勢うどんの特徴といえば、なんといってもやわらかい極太の麺。麺とタレは、インターネット通販や物産展などで入手できるので、自宅でも食べることができます。おうちでぜひ、伊勢うどんを堪能してください。

おいしく伊勢うどんをゆでるためのポイントは、ゆで時間を守る以外にも3つあります。「大きめの鍋とたっぷりの水を使う」「十分沸騰させてから麺を入れる」「鍋に入れてすぐに麺をほぐそうとしない」です。特に最後の項目が重要で、鍋に入れてからすぐに菜箸などでほぐそうとすると、やわらかい伊勢うどんの表面がグズグズになってしまいます。触りたいのをぐっと我慢して、ある程度自然にほぐれるのを待ちましょう。

ゆで上がったら湯を切って丼にあけ、タレをかけていただきます。基本のトッピングは刻みネギと一味唐辛子です。さらに追加するなら生卵やかつお節もおすすめ。食欲がなくスタミナをつけたいときには山芋のすりおろしを加えるのもいいでしょう。山芋は「山のうなぎ」と呼ばれるほどのスタミナ食材。夏バテなどの疲労時におすすめです。

山芋の栄養についは、以下の記事も参考にしてみてください。

故郷から遠く離れてお伊勢まで。命がけでたどり着いた地で食べるうどんは、一生忘れられない味となったことでしょう。その味が今に伝わっていると思うと、さらに味わい深くなるように思います。子どもからお年寄りまで、そしてはるか昔から現代まで、広く深く愛されているこの味を、ぜひおうちで味わってみてくださいね。