2019年01月30日

郷土料理|大根の辛味でぽかぽかに おしぼりうどん(長野県)

長野県埴科郡坂城町(はにしなぐん さかきまち)の郷土料理「おしぼりうどん」は、釜揚げうどんの一種。特産品のねずみ大根(辛味大根)のしぼり汁と味噌などを加えたつけ汁に、うどんを浸けて食べるシンプルながら味わいのあるうどんです。今回は、おしぼりうどんの由来や魅力についてご紹介します。


長野県埴科郡坂城町(はにしなぐん さかきまち)の郷土料理「おしぼりうどん」は、釜揚げうどんの一種。特産品のねずみ大根(辛味大根)のしぼり汁と味噌などを加えたつけ汁に、うどんを浸けて食べるシンプルながら味わいのあるうどんです。今回は、おしぼりうどんの由来や魅力についてご紹介します。

画像提供:坂城町商工農林課

 

辛さとほのかに感じる甘み

おしぼりうどんはアツアツの釜揚げうどんを、独特のつけ汁で食べる長野県の伝統食で、すりおろした大根を布巾などでしぼった汁に、味噌を溶いてネギや鰹節などの薬味を入れ、つけ汁とします。味噌はやはり辛口の信州味噌がおすすめ。大根のおろしを布巾で「しぼる」ところから、おしぼりうどんの名がつきました。

大根の辛味が強いつけ汁は、初めて食べる方が必ずむせてしまうほどですが、慣れた方だと辛さの奥にほんのりとした大根の甘みが感じられ、この味わいを土地の言葉で“あまもっくら”と表現します。大根のしぼり汁と味噌は別々に出てくるので、辛さが苦手な方は、多めに味噌を入れて調整します。通ともなると味噌を入れずに、大根の汁と薬味だけで食べる方もいます。

大根の栄養面では、消化を助ける消化酵素や、風邪予防が期待されるビタミンCと辛味成分(殺菌作用)が含まれています。これらは熱で壊れやすく、加熱するとじゅうぶんな働きができないので、おしぼりうどんのように生の大根のおろし汁を使うのはとても理にかなった調理法なのです。

おもてなし料理としてのおしぼりうどん

なぜこのような個性的なつけ汁ができたのか……というと、地理的な理由がありました。信州は海から遠く離れているため、かつては昆布や鰹節などの出汁の材料が手に入りにくい土地柄で、砂糖やみりんなど、甘みのある調味料も高級品でした。

そこで登場するのが、信州味噌と地元で取れる「ねずみ大根」から取れるしぼり汁です。大根の繊維部分は使わず、搾った汁だけを使うというのは、当時の食生活からすると少しぜいたくなレシピ。しぼり汁の辛味は10分ほどで揮発してしまうため、昔はお客さまが来たら、家族総出で大根をおろしたといわれています。アツアツのうどんに大根の辛味があいまって、うっすら汗がにじむほど身体の芯までぽかぽかになる一品です。

おしぼりうどんに使われる「ねずみ大根」とは

画像提供:坂城町商工農林課

 

おしぼりうどんで使われる「ねずみ大根」は、中之条大根(なかんじょだいこん)とも呼ばれ、降水量が少ない、小石混じりの土地でこそ、本来の辛味と形の大根ができるとされています。寒さが厳しくなると、実の内にでんぷん質を多く蓄えるようになり、糖度もあって奥行きのある味わいになります。

ねずみ大根の名前の由来は、その見た目にあります。普通の大根とは異なり、下のほうへ進むほど太くなり、先端がやや平らなお尻のようで、尻尾のように細く長い根があり、全体的なシルエットがねずみに似た形をしているところから、いつしか「ねずみ大根」と呼ばれるようになりました。

温かいうどんとキリリとした大根の辛味の組み合わせは、地元の方にとっては冬の風物詩でもあります。“あまもっくら”な味わいとは、実際にどんなものなのか興味がわいてきませんか。忠実なレシピではねずみ大根を使いますが、他の大根でも代用は可能です。底冷えする寒さの日に、試してみてはいかがでしょうか。