2016年02月16日

郷土料理|赤飯と一緒に食べる祝い汁「つぼん汁」(熊本県)

熊本県の一部地方で食べられるつぼん汁は、根野菜と鶏肉がたっぷり入ったすまし汁。赤飯と一緒に食べる祝い汁で、お祭りの時などのハレの席で供されます。いりこと鶏肉の出汁がポイントの、やさしい味の郷土汁です。


熊本県の一部地方で食べられるつぼん汁は、根野菜と鶏肉がたっぷり入ったすまし汁。お祭りの時などのハレの席で供されます。いりこと鶏肉の出汁がポイントの、やさしい味の郷土汁です。

根野菜たっぷりのあっさり汁

 

つぼん汁は、鶏肉、ごぼう、里芋、大根、かまぼこなどをいりこのだし汁で煮て、しょうゆで調味した具だくさんの汁物。熊本県人吉(ひとよし)・球磨(くま)地方で食べられており、秋祭りやお正月などの祝事で供されます。この地方のお祝い事には欠かせない汁物です。いりこの出汁と鶏肉から出る旨みがほっと温めてくれます。

各家庭で味も具材も少しの違いはありますが、具材の種類は7か9の奇数になるように作るそうです。具材の数字を気にするのは、祝いの汁物らしさがありますね。
フタ付きの深い壺のような椀に入れることから、「壺の汁」と呼ばれ、それが転じて「つぼん汁」となったといわれています。

秋祭りの行事食として

画像提供:青井阿蘇神社

 

大きなお鍋で一気に作れる汁物は、催事などのイベントで大活躍します。元々、つぼん汁はこの地方では秋祭りに供されるものでした。現在は秋祭りのみならず、お正月・祭り・祝事等で出されます。祝い事の際のつぼん汁は、必ず赤飯と煮しめがセットになるそうです。見た目も華やかになって、気持ちも上向きになりますね!

熊本県人吉市にある青井阿蘇神社(あおいあそじんじゃ)では、「おくんち祭」で今も変わらず「赤飯・煮しめ・つぼん汁」が供されます。400年以上も前から行われているお祭りで、毎年10月3日から11日まで開催され、9日の御神幸行列が最も盛り上がります。こちらでは子どもの無病息災を願って、子どもの頭を獅子面に噛んでもらう風習も残っており、つぼん汁と合わせて秋の風物詩です。

いりこと煮干しは違うもの?

いりことは新鮮な10cmぐらいのイワシをゆでて乾燥させたもののこと。いりこは西日本を中心とした呼び名で、関東では煮干しと呼ぶのが一般的です。好まれるイワシの種類も東と西で異なり、関東ではマイワシを原料とする平子(ひらこ)煮干し、関西ではカタクチイワシを使ったタレ煮干しが人気です。

栄養源として、そして稲作の貴重な肥料(干鰯・ほしか)として、イワシは日本人にとって大昔から欠かせないものです。おせち料理の田作りをはじめ、祝事の供物としても用いられます。鮮度落ちが早いので生ではあまりみかけませんが、煮干し、みりん干し、しらすにちりめんといった加工食品で出回っています。イワシは昔から日本人の食生活に根付く身近な食品なのです。

 

つぼん汁は多くの具材を使うため、意外と手間がかかります。そのためか、家庭で作られる機会は減っているようです。そのぶんお祝い事で供されると、昔より特別感があるのかもしれません。お祭りで供されたなら、ぜひ球磨焼酎もご一緒に。米焼酎のトップブランドともいわれる球磨焼酎は、球磨地方で作られる米焼酎。つぼん汁にもよく合います。