2016年06月30日

郷土料理|「さつま汁」(愛媛県) 焼き魚と味噌の風味が広がる 夏の郷土料理

さつま汁は愛媛県宇和島市の郷土料理。白身の焼き魚と麦味噌をすり合わせてだし汁でのばし、あたたかいご飯にかけていただきます。サラサラとかきこむと魚と味噌のうまみが口の中にふんわりと広がって、幸せな気持ちになれる汁物です。手間がかかる料理のため家庭で作られることは少なくなりましたが、郷土料理店では人気のメニューです。


さつま汁は愛媛県宇和島市の郷土料理。白身の焼き魚と麦味噌をすり合わせてだし汁でのばし、あたたかいご飯にかけていただきます。サラサラとかきこむと魚と味噌のうまみが口の中にふんわりと広がって、幸せな気持ちになれる汁物です。手間がかかる料理のため家庭で作られることは少なくなりましたが、郷土料理店では人気のメニューです。

 

味噌と魚の香ばしさに、さわやかな薬味の香りが立ちのぼる

さつま汁に使用する魚はアジやタイなどさまざまですが、宇和島市ではアマダイが最もよいとされています。こんがり焼いた魚と麦味噌をすりこぎですりつぶし、魚の頭・骨・皮でとっただし汁でのばします。

その汁のなかに、薄味をつけたきざみこんにゃくと、薬味のみかんの皮・ゴマ・ネギ・きざみ海苔などを入れてできあがり。あたたかい白米(麦飯の場合も)にかけていただきます。焼いた魚味噌の香ばしさと、鼻を抜けていくさわやかな薬味の香りがたまりません。

※以前ご紹介した宮崎県の「冷や汁」によく似たレシピですが、「冷や汁」にはつぶした豆腐やきゅうりが入っています。

名前の由来には諸説あり、「薩摩国(さつまのくに、現在の鹿児島県)から伝わったから」「だし汁がよくなじむよう、茶碗によそったご飯を十字に切った見た目が薩摩藩の島津家の家紋のようだから」などがあるようです。

また、さつま汁に当て字で「佐妻汁」と表記することもありますが、この漢字をあてられたのは昭和天皇なのだとか。「夫が妻を佐(たす)けて作った料理」という意味があるそうです。

 

※画像は、島津家水天渕(すいてんぶち)発電所記念碑(鹿児島県鹿児島市)

味の決め手は「麦味噌」

愛媛県は、はだか麦の生産量が全国でトップ(※)で、はだか麦麹(むぎこうじ)で作った「はだか麦味噌」も名産品のひとつ。麦味噌は九州全域、中国地方西部、四国西部で主に消費されています。全国的にみて一般的なのは米味噌です。
※2位 大分県、3位 香川県。平成26年農林水産省「作物統計」より

さつま汁の味のポイントは麦味噌を使用すること。麦味噌でないとあの味は出せません。麦麹を使った麦味噌はあっさりした甘みが特徴で、香りがとても豊かです。

ちなみに、麦味噌でおみそ汁を作る際は、麦の中央にある黒い線が入らないように「味噌こし」を使います。そのため、麦味噌を使う地域の家庭には必ず「味噌こし」が置いてあります。

捨てるのがもったいない! みかんの皮の効果

さつま汁の薬味は、おなじみのネギ・ゴマ・きざみ海苔のほかに、きざんだみかんの皮が使用されるのが特徴です。柑橘類の生産で有名な愛媛県ならではですね。みかんの皮を入れると、さわやかな香りとほんのり苦味がプラスされてとてもおいしくいただけます。

普段ポイッと捨ててしまうみかんの皮ですが、じつはビタミンや食物繊維は実よりも皮のほうに多く、ビタミンCは実の約3倍、食物繊維のペクチンは約4倍も含まれています。また、乾燥させたみかんの皮は中国医学では陳皮(ちんぴ)と呼ばれます。七味唐辛子にも入っており、食欲不振、嘔吐、疼痛(とうつう)などに古くから用いられてきました。捨てずにぜひ鍋やうどんの薬味として活躍させてみてください。

 

のどごしのよいさつま汁は、食欲のない夏でもサラサラといただける一品。愛媛県のお土産品店や高速道路のサービスエリアなどで、手軽に作れるパッケージ商品も販売されています。物産展などで見つけたらぜひ一度お試しを。さつま汁の素朴な甘さとふっくらした香りを堪能してください。