2016年01月14日

郷土料理|「たけのこ汁」(信越地方) 意外な組み合わせの定番料理

短い初夏の間だけ採れる「根曲がり竹」と、安価なサバ缶を組み合わせたたけのこ汁。意外な組み合わせですが、信越地方では春の恩恵と初夏のまぶしさを思い出す、定番の季節のおみそ汁です。


 

短い初夏の間だけ採れる「根曲がり竹」と、安価なサバ缶を組み合わせたたけのこ汁。北信濃では春の恩恵と初夏のまぶしさを思い出す、定番の季節のおみそ汁です。

サバ缶 × 根曲がり竹 初夏だけの味わい

長野県の初夏のおみそ汁といえば、根曲がり竹とサバ缶(サバの水煮缶)を入れたたけのこ汁。

地元の人にとっては素朴な定番料理ですが、たけのこ汁とサバ缶という組み合わせのおもしろさから、テレビなどで紹介され県外にもファンが増えてきています。

志賀高原をはじめ山深い寒冷地では、5月下旬から7月初旬にかけて「根曲がり竹」が採れます。旬の期間は短く、この時期のスーパーではサバ缶が山積みに。

そのほかの具材は、玉ねぎ、じゃがいも、豚肉を入れたり、溶き卵を加えるなど家庭によってさまざまで、たけのこ汁は北信濃の家庭料理に欠かせない初夏の味となっています。

旬が短い根曲がり竹は、採取も一苦労

 

根曲がり竹は、初夏にだけ採れる細いたけのこのこと。信越から東北にかけては「根曲がり竹」、山陰地方などでは「姫竹(ひめたけ)」を呼ばれています。山の多い信越地方では、若芽が顔を出すころはまだ雪が残っており、根元が雪の重みで曲がることから「根曲がり竹」と呼ばれるようになったとされています。

根曲がり竹は、実は竹ではなく笹(チシマザサ)の若芽です。チシマザサは高さ2メートルほどもあり、ヤブに迷い込んだらなかなか抜けだせません。しかも、冬眠明けの熊と遭遇する可能性もあります。根曲がり竹は旬が短いうえに、山を熟知している人しか採りにいけない希少な山菜なのです。

歯ざわりと香りがよく、ほのかな甘味もあるので、素焼きでもとても美味しくいただけます。採れたてはえぐみが少ないので、あく抜きは不要です。天ぷらや汁物、炊き込みご飯と、旬の時期には北信濃の家庭ではたけのこ料理がならびます。

高級品だったサバ缶

たけのこ汁を食べたことのない方は「なぜおみそ汁に!?」と思わずにいられない、たけのこ汁のサバ缶。現在では100円前後で購入できるサバ缶も、昭和30年以前は高級品でした。食卓にのぼっても、仕事で疲れた家長だけが食べられるごちそうだったとか。

たけのこ汁にサバ缶を入れるようになったのは、安価に出回るようになった昭和30年以降とされています。それ以前は川魚や身欠きニシンが入っていたそうです。安価になったサバ缶は、家長の一品から家庭のごちそうになり、海のない信州ならではのたけのこ汁に欠かせない具材となっていきました。

また、身体を温めることで毛穴を開く働きがあり、新陳代謝を活発にする効果も期待できるので、吹き出物や美肌対策などにもよいとされています。

昭和30年ごろの食生活において、おみそ汁は惣菜を兼ねた食卓に欠かせない一品でした。栄養価の高い旬の山菜、疲労回復によいとされる青魚を組み合わせたたけのこ汁は、まさに当時の食生活の知恵から生まれたおみそ汁ですね。