2017年05月09日

散策|妻籠宿(長野県) 江戸時代の面影が残る、住民に守られた町並み

江戸時代の宿場町のにぎわいを今に伝える妻籠宿(つまごじゅく/長野県)。時代の流れにともない全国的に町の景観が変化していくなか、早くから住民たちによる保存運動がおこり、日本初の重要伝統的建造物群保存地区に選定されました。今回は妻籠宿の原点ともいえる町並み「寺下(てらした)地区」、約450mの道中から見どころをご紹介します。


江戸時代の宿場町のにぎわいを今に伝える妻籠宿(つまごじゅく)。時代の流れにともない全国的に町の景観が変化していくなか、早くから住民たちによる保存運動がおこり、日本初の重要伝統的建造物群保存地区に選定されました。今回は妻籠宿の原点ともいえる町並み「寺下(てらした)地区」、約450mの道中から見どころをご紹介します。

 

妻籠宿の成り立ち

中山道六十九次のうち江戸から数えて42番目の妻籠宿は、交通の要衝として古くからにぎわった宿場町です。宿内の町並みは、本百姓(※1)30軒、門屋(かどや※2)17軒、借家3軒、隠居(※3)1軒、そのほか神社・寺などで構成されていました。

時代が流れて鉄道や道路が新たにつくられたことで、宿場としての機能は失われていきました。しかし、昭和に入って全国に先駆けた保存運動がおこり、江戸時代の宿場の姿を残したことが評価され、国の重要伝統的建造物群保存地区に選ばれています。

妻籠宿の特徴は、保存工事中も集落に人が住み、生活のなかで進められたことにあります。妻籠の人は町並みを残すにあたり、家や土地を「売らない、貸さない、こわさない」という3原則をはじめとする住民憲章をつくり、保存に取り組んでいます。

家並みは素朴で、昔の旅籠そのままの建築様式の家々が並んでいます。散策しながら一つひとつを丁寧に見ていけば、家屋の細部に繊細な工夫が施されていることに気づきます。

※1 本百姓…江戸時代の基本的な農民層
※2 門屋…地主の門のそばにある長屋。地主の雑用や小作をした農民が住んでいた
※3 隠居…官職から退いた人。またその人の住む家。

妻籠宿を歩こう! おすすめスポット

妻籠宿の歴史を知ろう! 南木曽町博物館

南木曽町博物館は、脇本陣奥谷と妻籠宿本陣、歴史資料館の3館で構成されており、これら全てをめぐるなら「全館共通券」がお得です。

町並み保存のシンボル「脇本陣奥谷(林家住宅)」

 

昔の人々の生活ぶりなどを語り部から聞くことができる「脇本陣奥谷(わきほんじん おくや)」は、妻籠宿観光の最初に訪れたいスポット。現在の建物は明治10年(1877年)に完成しました。

江戸時代にはヒノキなどの貴重な木材の伐採は禁止でした。明治になると禁制は解かれ、林家は自分の山から天然ヒノキを切り出して建築用材に利用。そのため林家住宅にはヒノキがふんだんに使用されています。

 

林家の屋号が「奥谷」であったこと、江戸時代には公家や大名が宿泊した「脇本陣※4」だったことから、「脇本陣奥谷」と呼ばれています。また、脇本陣奥谷には歴史資料館が隣接しており、こちらも脇本陣奥谷の入場券で見学できます。

※4 脇本陣…公家や大名、公用で旅をする幕府の役人などが宿泊するための施設を本陣といい、脇本陣は本陣で泊まりきれなかった場合などの予備の宿舎にあたる

所在地:長野県木曽郡南木曽町吾妻2187-1
入館料:共通券 大人700円、小中学生350円
脇本陣奥谷(+歴史資料館) 大人600円、小中学生300円
開館時間:9:00~17:00(入館受付は16:45まで)
休館日:年末年始(12/29~1/1)

江戸時代の本陣をそのままに再現「妻籠宿本陣」

 

妻籠宿本陣の当主は代々島崎氏で、明治に至るまで本陣と庄屋を兼ね勤めました。小説家島崎藤村の母の生家であり、最後の当主は島崎藤村の実兄でもあります。
今の建物は平成7年に本陣の跡地に、江戸時代後期の間取りをもとに忠実に復元されたものです。往時のままの剛健で立派な姿を楽しめます。

所在地:長野県南木曽町 吾妻2190
入館料:共通券 大人700円、小中学生350円
妻籠宿本陣 大人300円、小中学生150円
開館時間:9:00~17:00(入館受付は16:45まで)
休館日:年末年始(12月29日~1月1日)

妻籠宿ならではのミニスポット
妻籠宿には、立派な歴史的建造物のほかにも「おや?」と気になる小さな見どころが点在しています。その中でも、住民の保存運動の一環である「妻籠郵便局」、宿場町当時の様子を垣間見る「高札場」をご紹介します。

黒いポストが目印!「妻籠郵便局」

 

妻籠宿本陣の斜めむかいには、古風な作りと黒いポストが特徴の郵便局があります。妻籠宿では郵便配達員も江戸時代風。散策中に、黒い笠にはっぴ姿の郵便配達員を見かけるかもしれませんよ。

妻籠宿の中は10:00~16:00の間、車の通行ができません。そのため郵便物が特に多い場合を除いて、配達は徒歩で行われます。
妻籠郵便局の窓口で郵便物を出す際、希望すればオリジナルの消印を押してくれるので、ぜひ旅のお便りを出してみてください。郵便局の中にはこぢんまりとした郵便史料館があり、無料で開放されています。

所在地:長野県木曽郡 南木曽町吾妻妻籠2197-5
窓口営業時間:9:00~17:00(土日祝日はお休み)

仰ぎ見る高さの「高札場(こうさつば)」

 

高札場は脇本陣奥谷から北に100mぐらいの場所にあります。高札場とは幕府が禁制やご法度などを庶民に示した、現代の「官報掲示板」のようなもの。現在の高札場は江戸時代の姿を復元したものです。高札の文章をよく見ると、キリシタンの禁制や火付けの禁制などが書かれています。

幕府の触れ書きは大変重要なものですから、とても大きく目立つようにつくられたのでしょう。高さもかなりのもので、当時の身分制度は確固たるものですから、“お上のご威光を仰ぎ見る”といった意味もあったようです。

1ヵ月遅れの灌仏会「妻籠花祭り」

 

妻籠では、全てのお祭りが1ヵ月遅れ。桃の節句は4月3日、端午の節句は6月5日です。一説には、この辺りは気候が寒く、一般的な日にちで行うと季節に合わないため、季節に合うように1ヵ月遅れるようになったとされています。しかし、この説の詳細は不明です。

釈迦の誕生を祝う仏教行事「灌仏会(かんぶつえ・別名“花祭り”など)」も、本来は4月8日ですが、ここでは5月8日。1ヵ月遅らせる事で、山の花を集めて玄関先に飾る事ができます。古い町並みにそって桶(おけ)などで風流に生けてある花々は、山から採ってきたもの。妻籠では花祭りには山の花々がなくなるほど花を飾ってお祝いすると言われています。

年中行事が1ヵ月遅れの妻籠は、観光客にとってその年2度目のお祭りが楽しめる場所。季節の行事を欠かさないことも、町並み保存のひとつなのですね。

開催日:毎年5月8日
場所:妻籠宿エリア

江戸時代の宿場町に迷い込んだような町並みに、昔のままの町屋の看板。時代とともに失われていく、日本家屋の続く風景が、妻籠には残っています。蕎麦や五平餅などを供する郷土料理や茶房、土産物店などのお店も点在しており、飽きることなく散策できる宿場町です。タイムスリップした旅人のような気分を楽しむことができるでしょう。