2016年08月19日

語源・由来|飛んで火に入る(いる)夏の虫・戴く物は夏も小袖 夏にまつわる言葉の由来

夏という単語が用いられている表現も、よく考えてみるとどうやってできたのだろう?と不思議に思う言葉があります。今回は、自ら危険や災難・リスクを伴うところへ進んで飛び込むことを表す「飛んで火に入る(いる)夏の虫」と、人の欲深さ・強欲さを表現する言葉「戴く物は夏も小袖」の言葉の由来を探ってみました。


夏という単語が用いられている表現も、よく考えてみるとどうやってできたのだろう?と不思議に思う言葉があります。今回は、そんなふたつの言葉の由来を探ってみました。

飛んで火に入る(いる)夏の虫

 

この言葉は、自ら危険や災難、リスクを伴うところへ進んで飛び込むことを表しています。例えば、「釣りをしていたら、遠くの魚がわざわざこちらまで来てくれた。まさに飛んで火に入る夏の虫だ」のように使われます。
夜行性の昆虫は夜間、光に向かって飛ぶ習性があります。特に夏の夜、街灯のまわりをたくさんの虫が飛んでいる光景を見かけることが多いのではないでしょうか。これは、光の刺激に反応して近寄っていく「走光性」という昆虫の本能からくる行動です。しかし、光源が火である場合、飛び込んだ先では焼け死んでしまいます。また、人間が設置した誘蛾灯などである場合も、虫は命の危険にさらされます。このように、先に危険が待ち構えているにもかかわらず、飛び込んでしまう昆虫の習性を人間に置き換えたのが、「飛んで火に入る夏の虫」という表現です。
この表現に出てくる「虫」のモデルとなったのは、蛾の一種「ヒトリガ」だといわれています。漢字で「火取蛾・燈取蛾・火盗蛾」などの表記があるほど、夜行性の昆虫の中でもとりわけ自ら火の光へ飛び込んでいく習性をもっているそうです。

戴く物は夏も小袖

 

この言葉は「貰う物は夏も小袖」という場合もあり、どちらも「まだ使えそうな粗大ごみをついもらってしまったけれど、やっぱり不要だったので『戴く物は夏も小袖』になってはいけないと痛感した」のように、人の欲深さを表現しています。一見するとあまり悪い印象は持たない言葉のようですが、由来をたどってみると、良くない意味で使う表現だということがわかります。
「小袖」とは、袖口の開きを狭くし、絹で作られた綿入りの着物のこと。冬の季語とされている布子(ぬのこ)とも呼ばれています。寒さをしのぐための綿入りの防寒着ですから、小袖を暑い夏に着ることはまずありませんし、夏にもらえば不要なものであることは明らかです。しかし、不要なものでもタダでもらえるのであればもらっておこうと考える人の様子から、人の欲深さ、強欲さを表現する言葉になったといわれています。
「戴く物は夏も小袖」と同じ意味を表す別の表現には、「貰う物なら藜(あかざ)でも」があります。藜とは粗末な食べ物・粗食とされることも多い、ゆでれば食べることができる雑草のことですが、そんな粗末な食べ物であっても、もらえるものならもらっておこうという、小袖と同じ意味を持つ表現です。
ちなみに江戸時代、幕府は年4回の衣替えの時期を制度化しました。旧暦の9月9日が着物に綿を入れる日、4月1日が着物から綿を抜く日などと定めていたそうです。難読名字として知られる「四月一日(わたぬき)」は、文字通りこの衣替えの日付が由来となっていると伝えられています。

今回は、夏にまつわる表現とその由来をご紹介しました。季節にまつわる慣用句があるのは、四季が楽しめる日本ならではですね。