2018年12月07日

語源・由来|「挨拶」「花道」 禅と演劇に関する言葉

年の暮れに、お歳暮のやりとりや年賀状の準備をしていると、あの人に、この人に挨拶をしておきたい……と思う方も多いでしょう。そして年の暮れは有名人の引退が話題になる季節でもあります。今回は、禅宗の問答が語源であり、実は人の様子を探るという意味がある言葉「挨拶」と、歌舞伎や相撲に由来する「花道」という言葉に迫ります。


年の暮れに、お歳暮のやりとりや年賀状の準備をしていると、あの人に、この人に挨拶をしておきたい……と思う方も多いでしょう。そして年の暮れは有名人の引退が話題になる季節でもあります。今回は、実は人の様子を探るという意味がある言葉「挨拶」と、「引退の花道」などとも使われる「花道」という言葉に迫ります。

禅宗の問答が語源 「挨拶」

 

「おはよう」「こんにちは」といった挨拶を交わすのは、気持ちが良いものですね。この「挨拶」という言葉、「一挨一拶(いちあいいっさつ)」という禅の言葉から生まれたものなのです。では「一挨一拶」はいったいどのような意味なのでしょうか。

「挨」は後ろから押す、推し進める、近づくという意味、「拶」は迫る、圧迫するという意味で、どちらも似たような意味合いの言葉です。禅宗では、師が弟子に言葉を投げかけ、その返し方で禅僧としての境地や深みを探る問答を「一挨一拶」といいました。言葉で相手に近づき、返す側も言葉で迫る、そうしたやりとりを指す言葉だったのです。ここから、禅宗に限らずさまざまな問答を始め、手紙の往復なども挨拶というようになり、今のように儀礼的に取り交わす言葉や身ぶり全般を指す言葉として使われるようになりました。

親しい人と挨拶を交わすとき、無意識に、相手の表情、声、しぐさなどにも気を配ってはいませんか。その人が元気そうか、体調はどうかなど、挨拶から気づくこともあるでしょう。儀礼的な言葉を取り交わしながら、相手の内面に迫る――、それは語源に立ち返れば「挨拶」本来の形なのかもしれませんね。

歌舞伎や相撲で使われる 「花道」

 

年が暮れると、スポーツ選手や歌手や有名人の「引退」が話題になりますね。最後の舞台となる場が発表されると、多数のメディアが「引退の花道」などといって取り上げます。こうした世の注目が集まる華やかな場面を「花道」といいます。諸説ありますので、それぞれの由来を探ってみましょう。

引退の際に使われる「花道」という言葉は、実際に「道」があるわけではなく、あくまで比喩的な表現です。その一方で、実在する「花道」もあります。それは、歌舞伎の舞台と、相撲の土俵に行くまでの通路です。

まずは歌舞伎の舞台装置である「花道」。これは舞台に向かって左側(下手)から観客席を貫く通路で、役者がここから舞台に出入りするほか、見せ場となる演技も行われる重要な場所です。

歌舞伎の舞台の「花道」の語源については、現在伝わっている説のひとつでは、花道はもともと観客がひいきの役者に「花(心付けや祝儀のこと)」を贈るための通路で、ここから「花道」と呼ばれるようになったといわれています。

続いて相撲の「花道」、こちらは力士が支度部屋から土俵に出入りするための通路のことをいいます。平安時代、相撲の節(すまいのせち)に出場した力士が花をつけて入場したところから、この名がついたといわれています。

歌舞伎でも、相撲でも、その場の花ともいる主役が登場するのにふさわしい道として作られた「花道」。メインステージに向けてまっすぐに伸びた道は、ただの舞台装置というだけでなく、観客を沸かせ、役者の気持ちを奮い立たせる特別な装置としての役割を果たしているのです。

最初に触れたように、現在は「花道」は世の注目が集まる場面を指す言葉にもなり、特に、人が惜しまれて引退する場面でよく使われています。「引退の花道」といえば「通る」ものではなく「飾る」もの。見事な生きざまを示した人を惜しみ、スターにふさわしい華やかさで送り出したい人々の気持ちが、「花道を飾る」という成句に表れているのではないでしょうか。