2018年11月30日

語源・由来|「あっぱれ」「びっくり」 感情を表す言葉

驚きや感情の高まりを表す言葉で、褒める時などに使われる「あっぱれ」と、驚いた様子の「びっくり」。これらの言葉を発する状況と同じように、言葉の響きにもインパクトがありますね。ではこの2つの言葉、どのように生まれたのでしょうか。意外な由来をご紹介します。


驚きや感情の高まりを表す言葉、「あっぱれ」と「びっくり」。これらの言葉を発する状況と同じように、言葉の響きにもインパクトがありますね。ではこの2つの言葉、どのように生まれたのでしょうか。意外な由来をご紹介します。

ほめるとき以外にも使われた言葉 「あっぱれ」

 

「敵ながらあっぱれである!」といった言い回しに使われる「あっぱれ」。漢字では「天晴れ」と書くこともありますが、これは当て字で、国字(中国にはない、日本で独自に作られた漢字)では「遖」とも書きます。
「あっぱれ」とは驚くほど立派であるさまや、見事なさまを称賛する言葉であり、また、「すばらしい!」「見事だ!」「でかした!」と感心したり驚いたりしたときに発する言葉です。

この言葉、今では感動したときのほめ言葉として知られていますが、実はほめるときだけの言葉ではなかったのです。驚き、嘆き、期待、決意などの気持ちを含めて「ああ……」「おお……」と嘆息するときの感嘆詞としても使われていました。

「あっぱれ」の語源は「哀れ(あはれ)」。喜びも悲しみも心の底から湧き出る感情のすべてを表す言葉「あはれ」を促音化したのが「あっぱれ」なのです。

例えば、世阿弥の子である観世元雅が作った謡曲「盛久」に、平家の侍である盛久が源平の合戦ののちにとらわれ、鎌倉で幽閉されたとき、このように心中を語る一幕があります。

かくて存(ながら)え諸人に面を曝さんより、あっぱれ疾う斬らればやと思い候(生き続けて恥をさらすより、すぐにも斬られたいものだ……)

ここでの「あっぱれ」は、彼の決意や嘆きを表したものとなるため、あっぱれが称賛だけの言葉ではないということがわかります。

中世以降、「あはれ」は嘆きや悲哀を表す時に、「あっぱれ」は称賛する時に使われるようになりました。現代において「あはれ」と「あっぱれ」は、使いわけられるようになったものの、もともとどちらも心から自然に湧き出る感情、万感の思いを表す言葉だったのです。

驚いた時の動きから生まれた言葉 「びっくり」

 

「びっくり」は誰しもがよく知っているように、不意の出来事や意外なことに一瞬驚くさまのこと。ですが、実はもうひとつ意味があるのをご存じでしょうか。2つ目の意味は「わずかに動くさま」「びくり」という意味があります。通常はその後に否定を伴い、「びっくりとも動かず」といった使い方をします。実は「びっくり」は、「びくり」が促音化したものなのです。

「びく」は、「びくびくする」、「びくともしない」、などの言葉に使われるように、瞬間的に身を震わせるくらいのかすかな動きを表す擬態語です。「びっくり」も、驚く時に小さく動くことからこのように表現するようになったのでしょう。

また、「びっくり」にはおもしろい由来があります。「ドイツ語」にWirklich(ビルクリッヒ)という「本当」「事実」という意味の言葉があります。第1次大戦時に、ドイツの降伏を聞いたドイツ兵が「Wirklich(本当に?)」といったことから驚くことをさして「びっくり」という言葉ができたというのです。
実際のところ「びっくり」は、江戸時代の歌舞伎や浄瑠璃のセリフにも出てくるほど、もっと昔から日本で使われていた言葉。実際の語源ではないとはいえ、2つの言葉の音はたしかに似ていて、よくできた話として、まさにびっくりさせられます。

擬態語・擬音語には、促音の「っ」がよく使われます。また終わりに「り」がつくことが多いのも特徴のひとつ。「びっくり」「すっきり」「さっぱり」など……。数多い擬態語、擬音語からこうした作りの似た言葉を探してみるのもおもしろいかもしれませんよ。