2018年10月02日

せたがや相談室~体を温める食事~|第1回 温める前に“冷やさない”について考える

朝晩冷え込む季節になると、気になってくるのが体を温める食事。体を温めることには、疲れにくくなる、風邪をひきにくくなるなど、さまざまな効果があるといわれています。そこで今回は、栄養士・国際薬膳食育師特級師範・食育インストラクター1級の阿部富美先生を迎え、10月のお悩みテーマ「体を温める食事」について、みなさんの質問をもとにアドバイスをうかがいました。


今回の質問 ・体を冷やさない食事の方法はありますか?
・冷たくても体にあまり影響を与えない食材やレシピはありますか?
・野菜サラダを1年中食べます。これは体を冷やしてしまうのでしょうか?

たくさんのご応募をいただきましたが、より多くの質問にお答えするため、まとめて回答させていただきます!今回ご質問をしてくださった、たま様、ニャン五郎様、青汁愛飲者様ほか、たくさんのご質問、ありがとうございました!

●今回担当の専門家 阿部富美 先生
栄養士免許取得。
食育インストラクター1級取得後、養成推進校に認定される。国際薬膳食育師の最高峰、特級師範を取得後、1997年に始めた料理教室が、2013年から開始された薬膳マイスター通学制制度に全国初で認定される。レシピを教えるだけの教室ではなく、「食」に関する様々な知識を指導する重要性を感じ、現在は各所で食と健康についての講演、講座を受け持つ。楽しく美味しいヘルシーレシピを学ぶ料理教室と、様々な健康と食についての事業を展開している。
目次 ● 「冷たい」と「体を冷やす」は違う? ● 冷たい料理や飲み物/温かい料理や飲み物 ● 体を冷やす食材/体を温める食材 ● 「冷たい/冷やす」と「温かい/温める」のバランスをとって ● 「旬の走り」の食材は体のためにもぜひ食べたい

「冷たい」と「体を冷やす」は違う?

 
質問 体を冷やさない食事の方法はありますか?
冷たくても体にあまり影響を与えない食材やレシピはありますか?
まず最初に、覚えておいていただきたいことをお話しいたします。
冷たい料理や飲み物と、体を冷やす食材を同じような意味でとらえている方が多いように思いますが、実際の意味は異なっています。もちろん、温かい料理や飲み物と体を温める食材も意味は異なります。では、それぞれの違いについて見ていきましょう。

冷たい料理や飲み物/温かい料理や飲み物

温度が冷たい/温かい料理や飲み物は、直接胃の中の温度を上げたり下げたりします。そして、胃が元気に活動する、つまり食べ物をさかんに消化するには、体温と同じくらいの温度が適しているといわれます。食前に冷たいものをたくさん摂ると、胃の温度も下がってしまいますから、胃が自力で発熱して、温度を戻してから消化活動をすることになるのです。胃にとっては余分なお仕事をするわけですから、体全体が疲れてしまいやすいのですね。
私は夏の暑い時であっても、食前は温かい飲み物か、せめて冷たくない飲み物にした方が、夏バテ予防になりますよ……とよくお話ししています。

体を冷やす食材/体を温める食材

一方、「体を冷やす/温める食材」は、これらの食材自体の温度ではなく、体に入ってからの働きと理解していただくと良いです。例えば「体を冷やす食材」。東洋医学では、体の中にある炎症を「熱」と表現します。その熱を外に出す作用がある食材だということで「体を冷やす食材」と表現する場合があります。冷やすのではなく、余分な熱を追い出してくれるといったイメージです。

「体を温める食材」は、血流が良くなる効能のある食材なので、結果として体が冷えにくい体質に変わっていく……といったことを端的にまとめて「体を温める食材」と表現しているわけです。
食材によって例外もありますが、こうした食材については、料理自体が温かくても冷たくても、原則として効能は変わらないといわれています。つまり、「冷たい(温度が低い)料理」でも「体を温める食材」を使っていれば、一時的に胃の中を冷やしながらも、長期的には冷えにくい体質を作る働きをするのです。

こう聞くと「体を温める食材を使って温かい料理を作る」のが一番良いように思えますね。でも、だからといって「体を冷やす食材や冷たい料理はまったく食べない方がいい」というわけではないのです。次の質問にも関連してきますので、見ていきましょう。

「冷たい/冷やす」と「温かい/温める」のバランスをとって

 
質問 野菜サラダを1年中食べます。これは体を冷やしてしまうのでしょうか?

生野菜サラダは、トマトやきゅうりといった夏野菜が定番ですよね。サラダは冷たい方が美味しいですし、夏野菜には「体を冷やす食材」が多いので、「冷たい/体を冷やす」メニューと呼ばれることが多いです。体の中にこもった余分な熱を外に出してくれるので、夏に食べるのは良いのですが……冬でも山盛りで食べるとなると、体の中の必要な熱が出ていってしまい、冷えを感じやすくなり、冬だけでなく春になってから体調不良を起こしやすい体質に偏ってしまいます。

そこで「夏野菜は冬に食べないように」とおっしゃる有識者の方もいらっしゃるのですが、私は食べ方に気を付けたり、食べ過ぎないように心掛ければそこまで避けなくても良いと思っています。

野菜の中には体にとって良い働きをするさまざまな酵素が入っていて、しかも熱に弱いものが多いんです。つまり生で食べるとその酵素を減らさずに食べられるというメリットがあります。そこで、例えばショウガや玉ねぎ、スパイスといった「体を温める食材」が入ったドレッシングを使って「冷やす」と「温める」のバランスをとるとか、毎日たっぷり食べるのは止めて、食べたい時だけにするとか、工夫して食べるようにすれば“いいとこ取り”ができるわけです。

おみそ汁やスープなど、温かい汁物と一緒に食べるというのも、温度の面ではいいですね。ただ、具材選びには気を付けましょう。例えばミネストローネと生野菜サラダの組み合わせだと、「体を冷やす食材」であるトマトを、メニュー2品分も摂ることになってしまいます。そこで、ミネストローネに「体を温める食材」のニンニクや玉ねぎをたくさん入れると、「冷やす」と「温める」の帳尻が合い、冷えすぎない献立になるのです。

「旬の走り」の食材は体のためにもぜひ食べたい

 

「食事が影響して体質が変わる」というのは、お薬のように食べた直後にすぐそうなるのではなく、食生活の中で体が徐々にそうなっていくので、数カ月かかると考えられています。

暦の上で立冬は11月のはじめで、寒さが一番厳しいのは12月~2月。冷えが気になる方は、だいたい10月から冷え対策の食生活を心掛けていくと、いざ寒さが厳しい時期になって、体質の変化を実感できるようになります。寒い時に体が冷えたり、体調を崩しがちで辛いという方は、寒くなる前から体を温める食材や、滋養を付ける食材をたっぷり食べて、夏野菜を少し控えるように心掛けるといいかもしれません。

本題の「体を温める食事」からはちょっと離れますが……夏の暑さに弱い方の体調管理も、6月や7月に夏バテしてから対策をするのではなく、5月はじめの立夏には取り組み始めましょう。5月には夏野菜が美味しい季節に入りますから、先取りして旬の走りのものを召し上がっていただくと、いざ暑くなった時に変わってくるのではないでしょうか。それに、食事は来たる季節への期待感があった方が楽しいですからね。

次回は、これから食べたい体を温める食材、中でも秋・冬におすすめの食材を具体的に紹介していきます。お楽しみに!