2018年08月14日
体調がイマイチだな、病院に行ったほうがいいのかな?ちょっとした体の不調は、なかなか人には相談できないもの。そこで今回は、薬剤師・国際中医師である中垣亜希子先生を迎え、8月のお悩みテーマ「夏バテ」について、皆さんの質問をもとに、中医学からみた夏バテと健やかに過ごすためのアドバイスをうかがいました。
たくさんのご応募をいただきましたが、より多くの質問にお答えするため、まとめて回答させていただきます!今回ご質問をしてくださっためんきち様、ひらりん様、マリマリ様ほか、たくさんのご質問、ありがとうございました!
皆さん、夏バテにならないように、また、夏バテを克服するために、さまざまな食べ方をしていらっしゃいますね。
食べ物に気を遣うのはとても大切なことで、昔から「薬食同源(やくしょくどうげん)」と言います。食べ物と薬は、健康を保つ意味で源は同じで、薬を選ぶのと同じように、体質や体調によって食べ物を選ぶことが大切なのです。
記事の後半で、体質に合わせたおすすめの食材をそれぞれご紹介していますので、ぜひご覧ください。
ここで、皆さんの質問を例に考えていきましょう。
スタミナがつくイメージの中華料理は、元気で食欲がある方なら大丈夫です。しかし、エネルギーが足りない体質の方は消化にまわせる「気」が少なく、重たいものは消化しきれません。一般的に脂っこくてスタミナがあると言われている食事は、その人の消化能力に見合っていれば滋養にもなりえますが、見合っていなければ、ただ負担になってしまうだけなのです。
中医学では、「健康=陰と陽(よう)のバランスがとれた状態」と考え、これらのバランスが乱れることが病(やまい)の根源だと捉えます。バランスの歪みを見極め、足りないものは補い、余分なものは出す。体のバランスを整えて、症状緩和のみにとどまらない根本的な治療を目指します。
例えば、咳が出る人に「咳止め」だけで対処するのではなく、なぜ咳が出るのかという原因を探して体質改善をしながら治療していくのです。
ひとくちに夏バテと言っても、食欲不振・体力気力の低下・不眠など、訴える症状は人それぞれですよね。心身のバランスの崩し方に違いがあるから、現れる症状も異なるわけです。
先ほど「健康=陰と陽(よう)のバランスがとれた状態」とお伝えしましたが、もう少し詳しくご説明します。
陽は「体を温めるエネルギー」で「気」が属します。一方、陰は「体を冷ます潤い」のことで、西洋医学の血液に相当する「血(けつ)」と、体液や分泌液など「血」以外の栄養豊かな潤いである「津液(しんえき)」などが属します。
夏バテになりやすいのは、「気(エネルギー)」が足りない「エネルギー不足(気虚)タイプ」と、「陰(潤い)」が足りない「潤い不足(陰虚)タイプ」です。この2タイプは不足を補うような生活習慣や食生活にすることで、バランスが整います。体のバランスが整えば、つらい症状は軽減され、季節によって揺らぐことのない強い体を作ることができます。
他にいただいたご質問についても、まずはご自身の体質を知り、体質に合わせた対処法をとることが重要です。まずは、「エネルギー不足(気虚)タイプ」と「潤い不足(陰虚)タイプ」の特徴から、ご自身がどちらのタイプなのかチェックしてみましょう!
エネルギー不足タイプと潤い不足タイプそれぞれの特徴をご紹介します。どちらのタイプに当てはまる項目が多いか、チェックしてみましょう。
気とは「体中を巡る見えないエネルギー」のことで、体を温める、代謝を促す、外界にある体に良くないもの(暑さ・湿気・冷え・ウイルスなど)の侵入を防いだり、追い出したりする働きがあります。「元気がある」「気が弱い」「気疲れする」などは、気の状態を表すイメージそのものです。
「陰(体を冷ます潤い)」に比べて相対的に「陽(体を温めるエネルギー)」が大きいため、体に熱がこもるようになり、人によっては、ほてりが生まれます。以下のような特徴も出るようになります。
ご自身がどちらのタイプか分かりましたか?さっそく、タイプに合わせた夏バテ対処法をチェックしましょう!
気虚の方は気力・体力がなく、お友だちと遊ぶことや旅行するなどといった、長く活動するイベントに出るとどっと疲れ、その疲れをひきずります。
また、夏は、汗を大量にかくことで、汗から「気(エネルギー)」も「陰(潤い)」も失います。汗をたくさんかいた後に、どっと疲れた経験はありませんか?中医学では、単に体液とミネラルが奪われるだけでなく、「気」が奪われるからだと考えます。夏の間、気虚タイプの人は、いつにもまして気虚に傾きやすくなり、陰虚タイプの人も、いつにもまして陰虚に傾きやすくなります。
気虚タイプの疲労は、早めにしっかりと寝ることが大切です。また、気を補い、胃腸をいたわる食養生をすることで改善しやすくなります。
「気」を補う食材は、山芋類、穀物、豆類、かぼちゃ、イモ類など、ホクホクした食感のものが多いです。冷たいと胃腸に負担がかかるので、温かい状態で食べるのがおすすめです。
夏におすすめの食材は、山芋。山芋は「気(エネルギー)」と「陰(体を冷ますエネルギー)」の両方を補ってくれて、漢方では「山薬(さんやく・山でとれる薬)」と呼ばれています。エネルギー不足=お肉を食べなきゃ!と考える方もいらっしゃると思いますが、食べられないときは無理に食べなくても大丈夫です。タンパク質が不足しがちになるようでしたら、温かいお豆腐や茶わん蒸し、お麩など、消化に負担をかけないもので、良質なタンパク質をとるようにしてみましょう。
ちなみに山芋は「山のウナギ」と言われるほど滋養が高く、胃腸の弱っている場合、土用の丑の日召し上がるのでしたら、ウナギよりも「山のウナギ」こと山芋をおすすめします。
中医学では暑さや寒さ、湿気や乾燥などが体に入り込むと悪さをすると考え、体内に入ってくるこれらを「邪気」と呼んでいます。邪気のなかでも、夏は暑さによる「暑邪(しょじゃ)」、湿気による「湿邪(しつじゃ)」が盛んになります。
陰虚(潤い不足)タイプの方は、体を冷ます潤いが少なく熱が冷めにくいので、暑邪の影響を受けやすい傾向にあります。
そのため、たくさん汗をかくと、もともと足りない「陰(潤い)」をさらに失ってしまいます。それゆえ、ホットヨガやサウナ、岩盤浴や、唐辛子などの辛いものの食べ過ぎなどは、陰虚(潤い不足)タイプの方にはおすすめしていません。また、夜更かし、睡眠不足、パソコンやスマホなどで目を酷使する……なども陰を消耗するので避けましょう。
食事の面では体のほてりを鎮める食材を積極的にとることがおすすめです。体のほてりを鎮めると言っても、冷たい飲食物ではありません。中医学では体の熱を冷ます食べ物を「寒涼性」と言い、これは触って感じる冷たさではなく、食材の性質を指しています。ゴーヤ、きゅうり、スイカ、ナスなどですね。
また、体液を生じさせて体の渇きを止める食材として、山芋、トマト、きゅうり、おくら、スイカ、梨、蜂蜜、豆腐、豆乳、黒豆、豚肉、イカなどがおすすめ。
特にスイカは暑邪と湿邪を体から逃してくれます。体の熱を冷ましながら渇きを癒やしてくれるので、夏にもってこいの食材です。
体がだるい・重い、むくむ、口内が粘つく方は、湿邪がこもりがちなので、胃腸での水分代謝を助けるヨクイニンが特におすすめです。白米ですら胃もたれする方は、ヨクイニンを混ぜて炊くともたれにくくなります。
これだけ暑い夏ですので、ある程度は汗をかき、だるさがあったり、少し食欲が落ちたりすることが普通です。しかし、これらが極端な不調として現れる場合には、背後にバランスの歪みがひそんでいます。単純に「夏バテにはこれ!」とはせず、気になる体調や症状に合わせて、休養や食事をとるようにしていってください。体質に合わせた対処法をとることで、ダメージに強い体を作りましょう。