2017年08月17日

語源・由来|「こけら落とし」「茶番」 芝居にまつわる言葉

夏も終わりに近づき、文化の秋、芸術の秋がやってきます。展覧会や観光などもいいものですが、歌舞伎に落語、ミュージカルに現代劇など、劇場に足を運ぶのも、とりわけ心が浮き立つもの。今回は、芝居にまつわる「こけら落とし」と「茶番」のふたつの言葉の語源をご紹介します。


夏も終わりに近づき、文化の秋、芸術の秋がやってきます。展覧会や観光などもいいものですが、歌舞伎に落語、ミュージカルに現代劇など、劇場に足を運ぶのも、とりわけ心が浮き立つもの。今回は、芝居にまつわるふたつの言葉の語源をご紹介します。

こけら落とし

 

劇場や映画館が新築・改築をして初めて行う興行を「こけら落とし」といいます。「こけら落とし公演」といった使い方で耳にすることが多いのではないでしょうか。演劇関係だけでなく、公的な施設や場所の開場の際にも用いられます。
この「こけら」とは何か、ご存じでしょうか?漢字で書くと「杮」あるいは「木屑」。こけらとは材木を斧や小刀で削った時にできる、削屑や木片のことなのです。工事の最後に屋根に残った削屑、「こけら」を払い落した様子が転じて、新築・改築した劇場などでの初公演を表す言葉となりました。

こけらの漢字「杮」の諸説

「こけら」は漢字では「杮」と書きます。「柿(かき)」とよく似ていますが実は別の漢字。柿(かき)のつくりは鍋蓋に「巾」と書きますが、こけらの字のつくりは鍋蓋ではなく、縦棒1本で貫かれています。ですから、柿(かき)は9画ですが、杮(こけら)は8画と1画少ないのです。

 

このふたつの字の違いには諸説あり、昔から規範として使われてきた字書・辞典にも、この2字は同じ字とされていたり、別の字とされていても現在の使い方と逆とされていることもあり、区別は必ずしも明確なものではないのだそう。とはいえ、現在ではこのふたつの字は使い分けられているので、覚えておくといいですね。

茶番

 

「とんだ茶番だ」など、「茶番」を使ったセリフはよくテレビドラマなどで使われていますよね。下手な嘘芝居を見抜いた主役が、だまそうとした面々に言い放つ姿はスカッとするもの。付き合いきれないようなドタバタななりゆきに、あきれて出てくる一言として使われる時もあります。
底の見え透いたばかばかしい行為や物事をさして「茶番」もしくは「茶番劇」といいますが、「茶番」とはそもそも文字のごとく「茶の接待をする人」のことでした。それがなぜ、このような使われ方をするようになったのでしょうか。

茶汲み役の大部屋俳優による滑稽芝居から

江戸時代、歌舞伎の大部屋にいる下級の俳優たちは茶汲み役も受け持っており、これを「茶番」といいました。そして、「茶番」の彼らが楽屋の慰みに始めた、手近なものを用いて行う滑稽な寸劇や話芸が広まり、これが「茶番狂言」と呼ばれるようになります。
茶番狂言にも2種類あり、かつらや衣装をつけて行う寸劇は「立茶番(たちちゃばん)」、しゃれや滑稽を述べ立てる話芸は「口上茶番(こうじょうちゃばん)」といいました。いわば楽屋ネタだったものが江戸の末期には大流行したといいますから、大部屋俳優たちの気の利いたおふざけや、あるいは下手ぶりがよほど庶民に受けたのでしょう。
ここから転じて、下手な芝居や、底の見え透いたばかばかしい行為のことを、茶番劇、茶番というようになったといいます。

役者と観客の舞台を愛する気持ちが、伝統を作り上げ、芝居から生まれた言葉を今の世に残すこととなりました。演劇は今も昔も大衆娯楽の華。おしゃれをして、劇場に行き、笑って泣いて感動するのは、気分を若々しく保つのによいかもしれませんね。