2017年06月20日

語源・由来|漢字の成り立ち 「美」「躾」

漢字は、古代中国で生まれた表語文字で、現代でも使われている文字の中で最古の文字体系です。漢字には「象形文字」や「会意文字(かいいもじ)」、「仮借文字(かしゃくもじ)」などがあります。 今回は「美」と、美がついた「躾」の2つの漢字の成り立ちをご紹介します。


漢字は、古代中国で生まれた表語文字で、現代でも使われている文字の中で最古の文字体系です。漢字には「象形文字」や「会意文字(かいいもじ)」、「仮借文字(かしゃくもじ)」などがあります。
今回は「美」と、美がついた「躾」の2つの漢字についてご紹介します。

 

<美>大きいものは善いもの、美しいものである

「美」という文字の成り立ちには諸説があります。
中国最古の字書「説文解字」によると、「羊」+「大」の二文字で構成される「会意文字」だといわれています。
羊は古来より神事の際、献物として供えられていた動物です。大きな羊は献物としての価値が高く、大きいものは「善」いものとされていました。さらに神に供えられる羊は美しく完全であることを求められたことから、「大」+「羊」=「美」の漢字が生まれ、「美しい」という意味を持つようになったとのことです。そして、のちにすべての「美しい」の意味に用いられるようになりました。
また他説では、「美」下の部分の「大」は男性を表していて、古代中国の王が頭に立派な羊の被り物をするその姿が「美」の文字の成り立ちだといわれています。

そして、漢文学者の白川静博士によると、「美」は羊の全形を現す“象形文字”だそう。白川説では、羊の上半身を前から見た形が「羊」で、「大」の部分は雌羊の腰の形なのだそうです。つまり、羊の角から後ろ足まで、全身を上から見た形が「美」であるとされています。
どちらにしても、「美」とは大きくて立派な羊を意味しているようです。つまり、大きいものが美しく、そして美しいことは善いこと、と考えられていたのですね。

「美」の漢字が生まれた時代の中国のように、大きいものを「美」とする考え方もあれば、近年では、コンパクトさを「美」とする考え方もあります。「美しい」の概念も、時代とともに変わってきているのかもしれません。

 

<躾>美しさを身に付ける

「躾」という文字は、女性が身ごもった姿を表しているそうです。のちに身体の意味となった“像形文字”の「身」と、先ほどご紹介した「美しい」を組み合わせた国字です。国字とは、中国の漢字にならって日本で作られた和製漢字のことです。
「躾」は、礼儀作法を身に付けさせることを意味し、また、それによって身に付いた礼儀作法という意味でも用いられます。また、身だしなみを美しくするという意味もあります。“美しさを身に付ける”とは、よく考えて作られた漢字ですね。

「躾」は、もともと習慣性を意味する「習気(じっけ)」が一般的に広まる過程で「しつけ」に変化しました。「作りつける」「何度もやって慣れている」という意味の動詞「仕付く」が名詞になった言葉が「しつけ」。そして、裁縫で縫い目や折り目を整えるために仮にざっとあらく縫いつけておく「しつけ」。この2つが混同されてできた言葉になります。繰り返して訓練することで、最初は仮止めのようだった礼儀がしっかりと身につき、身だしなみも次第に元からそうであったように整うのでしょう。「習気」と「しつけ」が混ざった「躾」は両方の意味がうまく絡み合ってできているといえますね。

裁縫時に仕立てが狂わないように仮止めをする「しつけ」のように、しっかりした人間に教育し、身を美しくするために礼儀作法を身につけさせる「躾」。
「しつけ」と「躾」はまったく意味の違う言葉ですが、語源を知ると深く関わっていることがわかりますね。