2016年11月24日

間違いやすい日本語|「姑息」「敷居が高い」 誤用されやすい言葉

よく知られているけれど、実は誤用されている言葉はたくさんあるもの。その中から、今回は「姑息」と「敷居が高い」の正しい使い方を、クイズ形式でご紹介します。


よく知られているけれど、実は誤用されている言葉はたくさんあるもの。その中から、今回は「姑息」と「敷居が高い」、この二つの言葉をみていきましょう。

姑息

 

次のうち、正しい使い方はどちらでしょう?

1:彼女は姑息な手段を取る人物だ
2:この患者は重病だったので、姑息的治療を受けた




人に対して卑怯、またはずる賢いことを表現するために「姑息」という言葉を用いることはありませんか?実は、この使い方は誤用なのです。
「姑息」は、しばらくという意味の「姑」、休むという意味の「息」という二つの漢字の組み合わせでできています。それぞれの漢字の意味を合わせた「しばらくの間息をついて休む」から、「一時しのぎ」という意味を表す言葉となります。ですから、正解は「2」です。

※姑息的治療…病気の元を取り除く「根治治療」に対して、根治以外のすべての医療行為を指す言葉。

姑息という言葉の由来をたどると、古代中国の周から漢の時代にかけて編纂された書物「礼記(らいき)」の中の「檀弓(だんぐう)・上」に記されている、孔子の弟子・曾子(そうし)の言葉にたどり着きます。
曾子が病床にあった時、身分にそぐわないすのこを敷いていたことを御付きの男子に指摘され、曾子は息子の曾元(そうげん)にすのこを取り換えるように命じたそうです。曾元は重い病状の父を思い、体調が良くなってから取り換えようと答えたところ、曾子は「君子の人を愛するや徳を以(も)ってす。細人の人を愛するや姑息を以(も)ってす」と、「一時しのぎで生きながらえるよりも正しいことをして死ぬ方が良い」という意味の言葉を話し、曾元の愛は御付きの男子に及ばないと言ったと伝えられています。そして曾元はすぐにすのこを取り換えたそうですが、曾子はほどなく亡くなったとか。死の間際に伝えられた曾子の考えが、彼の言葉にあった「姑息」に一時しのぎという意味を与えたようです。
「姑息」は、誤用している割合が多いことで知られています。文化庁が行った平成22年度の国語に関する世論調査においても、7割以上もの人が「卑怯」という意味だと回答していたほど。誤用の原因としては、生意気、腹立たしい様を表現する「小癪(こしゃく)」との混同という説があるそうです。

敷居が高い

 

次のうち、正しい使い方はどちらでしょう?

1:このレストランは私には敷居が高すぎる
2:以前借金をしたことがある親戚の家への訪問は、敷居が高く感じてしまう




どちらも正しくみえる例文ですが、1は自分にはそぐわない、分不相応な場所という意味、2はその家に行きにくいという意味の違いがあります。
本来「敷居が高い」とは、迷惑をかけたり義理を欠いたりした相手の家へ行きにくいことを表現しています。つまり正解は「2」です。
敷居とは部屋と部屋との間、または住宅の玄関や門の下に敷かれた木のこと。「敷居が高い」の敷居は、住宅の入口部分で内と外を仕切り、戸を開閉するために敷かれた木を指します。特定の人の家へ行きにくい感情に、玄関や門の敷居が高い住宅へ入りにくいことを例えたのが、この言葉の由来です。
また、敷居は住宅へ入る際にまたぐ必要がある木であることから、誰かの家へ入る時に「敷居をまたぐ」という表現も使われています。

「敷居が高い」も、平成20年度の国語に関する世論調査において、本来の意味で使われていないことが多いことが判明。特に30代以下の回答者に誤用の割合が多いという結果がわかっています。若い世代の場合は、誤用の意味と似た「ハードルが高い」と混同していることも考えられます。

言葉は生き物、といわれることもあるだけに、今回ご紹介した二つの言葉のように本来であれば誤った意味が一般的な意味として認識されることは少なくないもの。変化する前の語源や正しい意味を覚えておきたいですね。