今回ご紹介するのは、人の態度やしぐさにまつわる間違いやすい言葉です。人を笑顔にするしぐさと、顔をしかめさせるしぐさ。正反対の二つの言葉から、意味の微妙な違いや、使い分け方を学びます。
2019年03月22日
今回ご紹介するのは、「愛嬌を振りまく」と「天に向かって唾を吐く」で、人の態度やしぐさにまつわる間違いやすい言葉です。人を笑顔にするしぐさと、顔をしかめさせるしぐさ。正反対の二つの言葉から、意味の微妙な違いや、使い分け方を学びます。
今回ご紹介するのは、人の態度やしぐさにまつわる間違いやすい言葉です。人を笑顔にするしぐさと、顔をしかめさせるしぐさ。正反対の二つの言葉から、意味の微妙な違いや、使い分け方を学びます。
子どもが愛らしいしぐさでニコニコと周囲の人に笑顔を見せる様子はかわいらしいものです。こうした、誰にでも明るくにこやかな態度をとることを表現するのに、「○○を振りまく」という慣用句があります。さて、クイズです。
「愛嬌」も「愛想」も、顔つきやふるまい、人当たりのよさを表す言葉でよく似た印象があります。それでは一体、どのように使い分ければよいのでしょうか。
「愛嬌」は、にこやかでかわいらしいこと、ひょうきんで憎めない表情やしぐさ、相手を喜ばせるような言葉や振る舞いを指します。もともとは「愛敬(あいぎょう)」という言葉で、仏教用語の「愛敬相(あいぎょうそう・仏や菩薩の優しく情け深い容貌や態度)」からきていて、人から愛され、敬われることを指します。それに加え、顔つきや振る舞い、性格などが愛らしいことをいうようになったのです。この「あいぎょう」が中世後期以降、清音化して「あいきょう」となり、やがて、意味に合わせて「嬌」の字が使われるようになったといいます。
ここで押さえておきたいのは、「愛嬌」が、その人本来が持つ性質の愛らしさを指しているということ。「かわいげ」と言い換えるとわかりやすいかもしれません。
一方、「愛想」とはどんな言葉でしょう。「愛想がいい」といえば、応対がよく、好感の持てる表情や態度のことですし、「愛想を尽かす」といえば、人への好意や信頼感を失うこと。さらに、「お愛想をいう」は相手の機嫌をとるための言葉です。「愛想」という言葉は、人に接する時の対応、いわば「意図的な態度」を表す言葉なのです。かといって、ネガティブな言葉というわけではありません。とりわけ飲食店などの接客が主要な仕事においては、「愛想」はお客様に心地良くいてほしいという心遣いやもてなし、サービスの表れです。飲食の勘定のことを「おあいそ」といいますが、これはお店が客に「お愛想がなくて申し訳ございません」という言葉とともに勘定書きを示していたのが由来といいます。飲食業が「愛想」を大切にしていた証しにも思えます。
一般的に、慣用句としては「愛嬌を振りまく」が正しいとされていますが、「愛想を振りまく」も間違いとは言い切れないという説もあります。「愛嬌」と「愛想」、二つの言葉それぞれの意味をよく知って、使い分けたいものですね。
「天に向かって唾(つばき)を吐く」という言葉があります。その他にも、「天に唾(つば)する」「天を仰いで唾(つばき)する」ともいいます。さて、この言葉の意味、正しく知っていますか。
中国に伝来された最初の仏教経典といわれる『四十二章経』に、「天を仰いで唾する」という言葉が記されています。「悪人が賢者に害を与えようとすることは、天に向かって唾を吐くのと同じことだ。唾は天まで届かずに、かえって自分の身を汚すことになる。」といった内容です。実は、先ほど「間違い」とした2の答えも、「悪人が賢者に害を与えようとする」の部分とは合致しています。しかし、このたとえ話のポイントは、その先にあります。ブーメランのように、「その行為によって自分に災いが降りかかってくる」ことを忘れてはいけません。
「唾」を含む、故事・ことわざは他にもいろいろあります。「眉に唾を付ける」というのもありますね。キツネやタヌキに化かされないようにするには、眉に唾をつけるとよいという言い伝えから、だまされないように用心することをいいます。また、事の成り行きが気になって緊張することを「かたずをのむ」といいます。これも唾のことわざのひとつ。漢字では「固唾を呑む」と書きます。固唾とは、緊張した時に口の中にたまる唾のこと。それを飲みこんで見守ることをいいます。
唾液には口の中の健康を守る重要な役割があります。特に、高齢になってからの唾液の分泌量の低下は、体の不調のサインということもあるそうです。日常生活においては、健康を守る「唾」の役割の大切さを認識しておきたいですね。