2019年02月01日

間違いやすい日本語|「流れに掉さす」「他山の石」 間違いやすい慣用句

昔から使われている慣用句やことわざのなかには、時代の変化や思い込みによって間違って使われることが多くなった言葉があります。今回は特に間違って使われることの多い、「流れに掉さす」と「他山の石」の2つの言葉をご紹介します。


昔から使われている慣用句やことわざのなかには、時代の変化や思い込みによって間違って使われることが多くなった言葉があります。今回は特に間違って使われることの多い2つの言葉をご紹介します。

棹をさすと舟は進む?それとも止まる? 「流れに掉さす」

 

「知に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかく人の世は住みにくい。」これらの言葉は、夏目漱石の『草枕』の有名な冒頭部分です。「情に掉させば流される」とありますが、ことわざの「流れに掉さす」を下敷きにした言い回しでしょう。
さて、ここでクイズです。

問. 「その発言は流れに掉さすものだ」というとき、「流れに掉さす」の意味は?

1. 傾向に逆らって、ある事柄の勢いを失わせる行為をすること
2. 傾向に乗って、ある事柄の勢いを増す行為をすること
答え 答えは2の「傾向に乗って、ある事柄の勢いを増す行為をすること」です。
「流れに掉さす」とは、水の勢いに乗るように、物事が思いどおりに進行することをいうのです。この問題は、文化庁による平成18年度の「国語に関する世論調査」で出題されたものですが、正答率はわずか17.5%でした。多くの人が、時流や大勢に逆らうという意味で使っているのです。

「棹をさす」とは、船頭が長い棹で水底を押して、船を水流に乗せることをいいます。これによって勢いがついた船は流れに乗って早く進みます。それでは、なぜ間違った意味にとらえる人が多いのでしょうか。ひとつは、昔にくらべて、船頭が棹を操る舟に乗る機会が少なくなったからでしょう。棹をさす、という言葉から、流れを止めたり、逆らったりすることと想像してしまうのかもしれません。もうひとつの原因としては「水をさす」との混同が考えられます。「水をさす」は、うまくいっている物事を脇から邪魔をすることですが、「流れ」と「水」のイメージの近さに加え、同じ「さす」という言葉が入ることで、「流れに掉さす」にも「邪魔をする」というイメージが加わったのかもしれません。

先に紹介した夏目漱石の「情に掉させば流される」は、「情に逆らったり抗ったりしても流される」という意味なのではなく、「情を重んじれば流される」ということをいっています。観光地などで和船に乗る機会があれば、棹で舟を自在に操り、流れに乗せる船頭さんの技を楽しみながら、あらためて「流れに掉さす」という言葉や、漱石の「情に棹させば流される」という言葉を味わってみてはいかがでしょうか。

手本としているのは良い行い?誤った行い? 「他山の石」

 

一石二鳥、石の上にも三年、焼石に水など、「石」にまつわることわざは数多くありますが、「他山(たざん)の石」もそのひとつ。実はこの言葉、間違って使われることの多い言葉なのです。

例えば「私にその話を聞いても無駄だよ。私にとっては他山の石だ」など、「自分とは関係ないこと」という意味で「他山の石」を使うことは誤用です。それは、「他山の石」は「他人の行いを自分の行いの参考や手本とする」という意味だからです。
さらに、引き合いに出す「手本」によっては誤った使い方をしてしまうかもしれません。さて、ここでクイズです。

問. 「他山の石」の意味は?

1. 他人の誤った言行も自分の行いの参考となる
2. 他人の良い言行は自分の行いの手本となる
答え 答えは、1の「他人の誤った言行も自分の行いの参考となる」です。
他山の石は、自分の修養の助けとなる、他人の誤った言行のことをいいます。この問題は平成25年度「国語に関する世論調査」で出題されていますが、正答者は30.8%。そもそも「わからない」と答えた人が3割以上もいたのです。

この言葉は、中国の『詩経』の「他山の石以て玉を攻むべし」という一節がもとになっています。「他山の石」は、よその山から出た、質の悪い石のことです。そうしたつまらない石でも、自分の玉を磨くために役立てることができる。転じて、他人の誤った言動でも自分の人格を磨く助けになる、という意味なのです。

基本的には、愚行や不祥事をさした言葉ですから、目上の人に向かって、「あなたの言行を他山の石として精進します」などとは決していわないようにしましょう。