語源・由来|「テンパる」「ビビる」 使われ方が変わった言葉の語源
「テンパる」、「ビビる」という言葉は、若者が使う歴史の浅い言葉のようにも見えます。「テンパる」は、焦る・いっぱいいっぱいになるといった意味で、まるで心に余裕がないさまをいう俗語です。「ビビる」は、気おくれする意味の俗語表現として広く使われている言葉です。しかし語源をさぐると、実はまったく違う意味で使われていた言葉です。今回はこの二つの言葉の成り立ちのおもしろさをご紹介します。
「テンパる」、「ビビる」という言葉は、若者が使う歴史の浅い言葉のようにも見えますが、語源をさぐると実はまったく違う意味で使われていた言葉です。言葉の成り立ちのおもしろさをご紹介します。
もとは麻雀用語 「テンパる」
「テンパる」は、焦る、いっぱいいっぱいになる、慌てて動揺する、といった意味で、まるで心に余裕がないさまをいう俗語です。「新人の頃、ランチ時の混雑にテンパってオーダーミスをしちゃってね」などと使います。
ちょっとおもしろい響きをもつこの言葉、もともとは「聴牌(テンパイ)になる」という麻雀用語から生まれたものです。「聴牌」は、あと1個、必要な牌(パイ)が入れば上がれる状態になること。この「聴牌」に接尾辞の「る」がついて動詞化したのが「テンパる」です。ここから転じて、「テンパる」は、十分に用意がととのうことをいうようになり、さらに、目いっぱいの状態になることもいうようになりました。
現在では、「十分に用意がととのうこと」の意味ではあまり使われなくなり、「目いっぱいの状態」のほうの意味が多用され、心に余裕がないさまを表す言葉として一般的に使われています。
この「テンパる」のように、体言+接尾辞「る」の組み合わせは非常に汎用性が高く、さまざまな新しい動詞が生まれています。「グチる(愚痴+る)」や「ヒニクる(皮肉+る)」などはすでに一般的な言葉になっていますし、「デコる(デコレーション+る)」「ディスる(ディスリスペクト+る、ののしる、悪口をいう意)」など、長めの言葉を省略することで日本語の動詞らしくなり、多くの若者が使うようになった言葉もあります。
耳慣れない新しい動詞が出てきた時、どんな言葉の組み合わせや省略でできているか、さぐってみるのもおもしろいですよ。
江戸時代からある言葉 「ビビる」
「初舞台に立った時はそうとうビビった」などと使う「ビビる」。気おくれする意味の俗語表現として広く使われている言葉です。近年になって生まれた若者言葉にも見えますが、実は、意外にも歴史があり、江戸時代の文献にも見られる言葉なのです。
「びびる」で辞書を引くと、「はにかむ。恥ずかしがって小さくなる。また、気おくれして小さくちぢこまる。萎縮する」(出典:精選版日本国語大辞典)と出ています。現代では、後半の「気おくれして小さくちぢこまる」ほうの意味で通っている「びびる」ですが、恥ずかしがって小さくなる様子とは確かに近い印象を受けます。
この言葉が出てくる文献としては、1680年の『続無名抄』に例を見ることができ、また、江戸時代後期の川柳集『柳多留』にも「あいさつに男のびびる娵(よめ)の礼」という句が見られます。お嫁さんのあいさつにはにかむ男の様子を表しているのでしょうか。ほかにも「びびる」は、「すねて素直でなくなる」、「ケチケチする」といった意味でも使われていました。京都では鐘の音が振動して響くことを「鐘の音がびびる」というそうですが、びびるには「音が振動する」という意味もあります。
語源は諸説あるのですが、「びび」が大地の震動音や物の震動音を表すことから、そうした音に反応して尻込みする、という説や、「ビクビクする」を略した言葉ではないかといわれています。
前半では名詞やオノマトペなどの体言に「る」をつけることで生まれる新しい動詞をご紹介しましたが、もし「ビクビクする」から「ビビる」が生まれたのであれば、その成り立ち方が似ていますね。「ビビる」という言葉の歴史は思いがけず古いものでしたが、その生まれ方は今の若者の造語の感覚に近く、それゆえに、「ビビる」は現代の俗語として幅広く使われる言葉になっていったのかもしれません。
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