
語源・由来|「ようかん/ういろう」 菓子にまつわる語源
細長く作った和菓子の総称を「棹物菓子」といいます。その代表格が、ようかんとういろうです。「ようかん」は、小豆などの餡を寒天などで固めたもの。「ういろう」は、米粉と砂糖を練り混ぜて蒸したもので、もっちりとした口当たりに独特のおいしさがあります。今回は、羊羹とういろう、二つの棹物菓子のルーツに迫ります。
細長く作った和菓子の総称を「棹物菓子」といいます。その代表格が、ようかんとういろうです。「ようかん」は、小豆などの餡を寒天などで固めたもの。「ういろう」は、米粉と砂糖を練り混ぜて蒸したもので、もっちりとした口当たりに独特のおいしさがあります。今回は、羊羹とういろう、二つの棹物菓子のルーツに迫ります。
本当は羊肉のスープだった 「ようかん」

黒くつやのある外観がシンプルで美しいたたずまいのお菓子、ようかん。漢字では「羊羹」と書きます。羊羹は、餡に寒天を加えて練り固めた練り羊羹が有名です。そのほかにも、餡に小麦粉や葛粉を加えて蒸す、モチモチした「蒸し羊羹」や、水分が多く寒天で冷やし固める「水羊羹」があります。
さて、この「羊羹」、材料も形も羊は関係なさそうなのに、「羊」という文字が入っているのが不思議です。「羊羹」の名前はいったいどのようについたのでしょうか。
中国の詩集『楚辞』の中に、「羹(あつもの)に懲りて膾(なます)を吹く」という諺があります。この諺は、熱々のスープ(羹)を飲んでやけどをしたことに懲りて、冷たい酢の物(膾)まで吹いて冷まして食べようとすることで、一度失敗したのに懲りて、度の過ぎた用心をすることのたとえとして使われます。このように中国では、熱い吸い物のことを「羹」といい、実は「羊羹」とは字の通り、羊のスープのことでした。
「羊羹」は禅宗の文化とともに、日本に渡来したのですが、僧侶は肉食が禁じられていたため、小豆で代用し、羊の肝の形に作って蒸し、汁に入れて供しました。のちに、蒸し物のまま茶菓子として供されるようになり、それが現在の蒸し羊羹の原型になったといいます。
また、羊のレバーによく似た見た目の、小豆と砂糖を使った「羊肝餅」「羊肝こう」という蒸し餅が中国にあり、この菓子が羊羹のルーツになったともいいます。「羊肝こう」が日本に伝わった際、「肝」と「羹」の発音と読み方が同じであることから、先のスープのほうの「羊羹」と混同され、菓子のほうに羊羹の字が使われるようになったというのです。
当初は、蒸して作る羊羹が主流でしたが、江戸時代には寒天の製法が確立したこともあって練り羊羹が全盛期を迎えます。現代でも、水分が少なく糖分が多く、日持ちがよい練り羊羹は贈答用にも好まれている和菓子です。
ところで、意外な分野で羊羹が高く支持されているのをご存じでしょうか。それは、マラソン、登山、自転車など、長時間の運動をする人たちです。手軽にエネルギーを補給できる携帯食料としてミニサイズのスティックタイプの羊羹は人気があり、スポーツシーン専用の羊羹も発売されているほど。とりわけ、自転車で走る人たちには、長時間のサイクリングにおけるエネルギー補給は必須。小さくて高カロリー、さらにしっとりしていて口の中の水分を奪わず、しかも気温が高くてもチョコレートのように溶ける心配もない羊羹は、重宝されているのです。コンビニエンスストアでも手軽に買えるミニ羊羹。旅行など、長時間のお出かけの空腹対策に、ひとつ、バッグに忍ばせておくのもよいかもしれませんね。
痰を切る薬の名前だった 「ういろう」

ういろうは、漢字では「外郎」と書き、正しくは「外郎餅」といいます。その名の由来は、なんと痰切りや口臭消しの薬の名前からつけられたもの。さらに由来を辿ると、中国の官僚の名前がもととなっているのです。
かつて中国には、「員外郎(いんがいろう)」という官僚名がありました。元王朝の員外郎であった陳宗敬が室町時代、日本に帰化した際に「透頂香(とうちんこう)」という薬を伝えます。陳宗敬は家名を「外郎」とし、その外郎家が透頂香を製造したために、「透頂香」は「外郎」という別名で呼ばれるようになったのです。
餅菓子が、ういろうと呼ばれるようになったいきさつには二つの説があります。ひとつは、この菓子はかつて黒砂糖で作るのが一般的で、色の黒さなど見た目が「外郎薬」とよく似ていたから、というもの。もうひとつの説は、この菓子が外郎薬を飲む時の口直しに用いられたから、というものです。
歌舞伎十八番の演目のひとつに『外郎売』があります。十八番の語源に関しては、以下の記事も参考にしてみてください。
さて、この『外郎売』の見どころは、外郎薬の行商人による長広舌です。特に、薬の効果を見せるために、外郎売が1粒口にして、すっきりするばかりか、舌がよく回るようになるといって、次から次へと早口言葉を繰り出し薬の効き目を盛大にアピールするところが非常におもしろい演目です。この台詞は、演劇やアナウンスを学ぶ時の滑舌練習のテキストとしても知られています。日本語のおもしろさ、洒落のうまさに脱帽させられる見事な長台詞ですから、機会あれば一度音読してみるのもよいかもしれません。
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