
間違いやすい日本語|「知恵熱」「雨模様」 新しい意味が広まりつつある言葉
言葉は、時代の変化とともに、使われ方が変わります。ついには本来の意味が変わってしまうこともあるものです。今回は、近年、本来の意味とは違う使われ方をされることが増えてきた、「知恵熱」と「雨模様」の二つの言葉をご紹介します。何十年か後には、新しい意味のほうが一般的になっているかもしれません。
言葉は、時代の変化とともに、使われ方が変わります。ついには本来の意味が変わってしまうこともあるものです。今回は、近年、本来の意味とは違う使われ方をされることが増えてきた言葉をご紹介します。何十年か後には、新しい意味のほうが一般的になっているかもしれません。
子どもの症状? 大人もなるもの? 「知恵熱」

「知恵熱」が出たことはありますか。覚えていない、という方がほとんどだと思いますが、あらためて「知恵熱」という言葉を正しく使えているか、見直してみましょう。早速ですが、クイズです。
問. 「知恵熱が出た」というときの「知恵熱」の意味はどちらでしょうか。
2. 深く考えたり頭を使ったりした後の発熱
答えは、1の「乳幼児期に突然起こる発熱」です。
生後6カ月から1歳くらいの乳幼児に起こる急な発熱で、病気ではなさそうなものを「知恵熱」といいます。この問いは、文化庁の平成28年度「国語に関する世論調査」で出題されたものですが、「知恵熱」の本来の意味を正しく答えられた人は4.5割で、なんと半数以下。しかも、世代によって正答率は大きく違い、70代では7割以上が正答しているのに対し、50代では半々。そして20代・30代では、なんと正しい意味で使っている人はわずか3割という結果が出ました。
そもそも、乳幼児期に突然起こる発熱をなぜ「知恵熱」というのでしょうか。赤ちゃんは、生後半年くらいまでは、母胎にいるときから持っていた免疫や母乳に含まれる抗体のおかげで、病気にかかりにくく、高熱が出ることはそう多くありません。しかし、半年を過ぎると、感染症にもかかるようになりますし、さまざまな原因で熱も出やすくなります。ちょうどこの時期の赤ちゃんは、表情が豊かになり、行動範囲も広がってくるのです。かわいらしいしぐさを見せて親を喜ばせる反面、思いがけないいたずらも増えて目が離せなくなる時期でもあります。つまり、ちょうど「知恵がつく」といわれる頃。こうした時期に、一見原因不明の、病気らしくない発熱が見られると、知恵熱という名前がつけられたのだといわれます。
知恵熱を「深く考えたり頭を使ったりした後の発熱」の意味で使うのは、本来は間違いです。しかし、「赤ちゃんのように、病気じゃないのに熱が出た」という比喩のつもりで、「頭を使いすぎて知恵熱が出た」というのは間違いとはいえません。現在、「知恵熱」を「深く考えた後の発熱」という意味で使っている方の多くは、比喩のつもりではなく、「知恵=深い思考」ととらえているかもしれませんね。
実際に頭を使いすぎて発熱する、ということはあるのでしょうか。実は、強いストレスや、慢性的なストレスによって体温が上昇し、突発的に高熱が出たり、微熱が長く続いたりする「機能性高体温症(心因性発熱)」という症状があります。考え過ぎがストレスと結びつけば、発熱もありえるのです。この症状の場合、原因がストレスですから、一般的な解熱剤は効きません。「病気ではなさそうだけど熱が出る」ような場合、気軽に「知恵熱」と考えず、熱の原因にきちんと向き合ったほうがいいかもしれません。
降っているのか、降っていないのか 「雨模様」

天候を表す、雨模様(あめもよう、あまもよう)という言葉があります。外出しようとして「外は雨模様だよ」といわれたら、傘を持っていこうか、置いていくか、迷う方もいるのではないでしょうか。ここでクイズです。
問. 「外は雨模様だ」というとき、雨模様はどちらの意味だと思いますか。
2. 小雨が降ったりやんだりしている様子
答えは、1の「雨が降りそうな様子」です。
雨模様とは、本来は、どんよりと曇って雨の降り出しそうな空の様子を指します。これは文化庁の平成22年度の「国語に関する世論調査」で出された問題ですが、この調査では、本来の意味を選択した人は約4割にとどまり、2の「小雨が降ったりやんだりしている様子」を選んだ人のほうが多いという結果になったのです。
もともと、雨模様は「雨催い(あめもよい、あまもよい)」という表現をしていました。「催い」は、名詞の下につくと、その物事のきざしが見えること、そうなる気配が濃厚なことを表します。眠気を催す、吐き気を催す、などと使いますが、この時点では、まだ眠ったり吐いたりはしていません。ですから、「雨催いの空」といえば、雨が降りそうな気配が濃厚な空、ということ。語源をたどれば、雨模様が、雨の降りそうな様子であるということはよくわかります。
「催い(もよい)」が「模様(もよう)」に変化したことで、本来の意味がわかりにくくなったといえるかもしれません。「模様」は、名詞の下について、それらしい様子や雰囲気であることを表す言葉でもあります。そのため、「海沿いは雨模様のようだ」など、「雨模様」を「雨が降っているらしい様子」という意味で使う例も出てきました。さらに、近年は「現に雨が降っている」意でも使う(小学館・デジタル大辞泉)とする辞書も出てきています。
曖昧な使われ方をしている「雨模様」。しかし天気というのは本来移ろうものです。雨が降ったりやんだりしそうな天候を一言で表すのに便利なこともあり、今後、新しい意味を認める流れはいっそう強まるかもしれません。いずれにしても、「雨模様」と聞いたときには、傘は持参したほうがよさそうですね。
関連する投稿
ゴールデンウィークから初夏にかけては、陽気に誘われて過ごしやすい時季です。そこで今回は、これまでご紹介してきた旅記事のなかで、「丸山千枚田」「奥入瀬渓流」「尾瀬国立公園」などの、新緑が美しい自然豊かな観光地や散策ルートをご紹介します。
キャッシュレス決済を利用する方が増えるなか、最も使用されているのがクレジットカード。しかし、これまでクレジットカードをあまり使用されていなかった方や、これからクレジットカードの使用を考えている方には分からないことも多いのではないでしょうか。そこで今回は、いまさら聞けないクレジットカードの使い方や、注意したいポイントについてご紹介します。
語源・由来|「お雑煮」「羽根つき」 正月にまつわるめでたい由来
季節ごとの習わしや行事食は多々あれど、中でもお正月にまつわるものは、多く現代に残っています。今は簡略化されてしまって、そもそもの由来に思いを馳せることは少なくなっているかもしれません。今回は「お雑煮」と「羽根つき」が始まった理由や、言葉の意味をご紹介します。
イベント事のマナー|年の前半の締めくくり「夏越の祓」で、後半も健やかに
6月の終わりに行われる「夏越の祓(なごしのはらえ)」は、半年分の穢れを祓って夏を迎え、残りの半年を健やかに過ごすための神事。日本各地の神社で行われ、基本的にどなたでも参列できます。今回は、年の前半の締めくくりである夏越の祓について、また、茅の輪(ちのわ)くぐりのふるまい方についてご紹介します。
散策|美しい渓流や苔に癒やされる川沿い散策「奥入瀬渓流」(青森県)
十和田八幡平国立公園(青森県)を代表する景勝地のひとつが「奥入瀬(おいらせ)渓流」です。十和田湖から流れ出る奥入瀬渓流は、国指定の特別名勝、天然記念物にも指定されています。四季折々の自然が満喫でき、遊歩道もしっかり整備されています。高村光太郎作の乙女の像でも知られる十和田湖と合わせての散策がおすすめで、ガイド付きのネイチャーツアーも開催されています。「星野リゾート奥入瀬渓流ホテル」で大人で優雅なリゾートも楽しめます。
最新の投稿
教えたくなる!クリスマスの豆知識 ~キリストの本当の誕生日、ツリー飾りの知られざる意味など~
12月がやってくると街路樹がライトアップされ、街並みが華やかに彩られます。日本ではクリスマスを宗教に関わらず楽しみますが、そのためかクリスマスについて知らないことも多いのではないでしょうか。この時季にぴったりな、思わず教えたくなるクリスマスの豆知識をご紹介します。
パソコンやスマホによる目の疲れや、涙の量が減少するドライアイ、慢性的な目の疲れによる眼精疲労など、増加する目のトラブルは現代病のひとつ。目の疲れが続くと、肩こりや頭痛などの症状も出てしまうので厄介です。今回はご自身でできる、目のセルフケアをご紹介します。
「ブリ」は、冬に旬を迎える、出世魚としても知られる魚です。和食のメニューにも取り入れられ、縁起のよい魚としておせち料理として口にする機会も多いのではないでしょうか。今回は、そんなブリの基本情報や栄養、おすすめの食べ方をご紹介します。
健康メニュー|実は万能だった!塩昆布の栄養と正しい保存法について
食卓に準備しておくと便利なのが塩昆布。おかずがやや物足りない時のご飯のおともにする他、おにぎりやお漬物にと、あれこれ重宝します。原料は昆布なのでうま味もあり、健康にうれしい栄養素も多く含まれています。何より昆布そのままよりも、手軽に食することができるのが魅力です。今回は、塩昆布の豊富な栄養と保存法などについてご紹介します。
焼売は、日本の定番中華メニューとして親しまれている料理です。蒸して作るのが一般的ですが、なぜ「焼」という文字が付いているのでしょうか。今回は焼売の名前の由来をはじめとして、日本独自の焼売文化や焼売の栄養、アレンジメニューをご紹介します。