当て字|「簿記」「瓦」 海外伝来の技術を表す言葉
海外から入ってきた言葉を、音や意味をいかして漢字に翻訳し、根づかせてきた日本。昔から存在する日本語だと思っていたら、実は「外来語」を漢字に置き換えた「当て字」、ということもよくあります。今回は、明治時代に生み出された当て字「簿記」と、仏教伝来の昔に作られた当て字「瓦」の二つをご紹介します。
海外から入ってきた言葉を、音や意味をいかして漢字に翻訳し、根づかせてきた日本。昔から存在する日本語だと思っていたら、実は「外来語」を漢字に置き換えた「当て字」、ということもよくあります。今回は、明治時代に生み出された当て字と、仏教伝来の昔に作られた当て字の二つをご紹介します。
あの福沢諭吉による翻訳「簿記」
お金やものの出入りを記録する技術である「簿記」。経理を仕事とする人にはなじみ深い言葉ですが、この言葉、実は「当て字」というから驚きです。
ブックキーピング / bookkeeping(英語)
「簿記」は英語のbookkeepingの翻訳です。bookkeepingの語感をいかした「音訳」、つまり「当て字」であるという説と、帳簿記録や帳簿記入を略した「意訳」という説があります。音訳、意訳の両方を意識して作られた言葉だとしたら、英語の語感も日本語の意味もどちらもいかした、絶妙な翻訳といえるでしょう。
この言葉の生みの親はあの福沢諭吉といわれています。福沢諭吉はアメリカで出版された『Common School Book−keeping』という本を翻訳し、明治6~7年、『帳合之法(ちょうあいのほう)』を慶應義塾出版局より出版しました。この本によって、日本に複式簿記が伝わり、「借方」「貸方」など今も使われる多くの簿記用語も生み出されました。
実学を重んじ、いち早くその重要性に気づいて西洋簿記を紹介した福沢諭吉。しかし自身は『福翁自伝』に「ダカラ私は簿記の黒人でなければならぬ、所が読書家の考と商売人の考とは別のものと見えて、私はこの簿記法を実地に活用することが出来ぬのみか、他人の記した帳簿を見ても甚だ受取が悪い」と残しています。この意味は、「だから私は簿記の玄人でなければならないのに、読書家の考えと商売人の考えとは別のもののようだ。私にはこの簿記法を実際に使いこなすことができないばかりか、ほかの人の記した帳簿を見ても、非常にのみ込みがよくない」ということ。簿記そのものは得意とはいえなかったようです。
福澤諭吉は1万円札にも描かれていますが、お金の管理に欠かせない「簿記」という言葉を生み出し、その技術を日本に広めた人物だと思うと、そのつながりもおもしろいですね。
もとはサンスクリット語 「瓦」
粘土を同じ形に固めて焼成し、建物の屋根を葺くのに使われる「瓦」。飛鳥時代、仏教の伝来と同じころに、百済(くだら)からその技術が伝えられて以来使われてきました。もともとは寺院仏閣の建築資材でしたが、次第に一般家屋にも使われるようになり、今に至ります。「瓦」は中国から百済を経て輸入された海外の技術。どのように日本語として取り入れられたのでしょうか?
カパーラ/kapāla (サンスクリット語)
瓦はサンスクリット語(梵語)の「カパーラ」の音からきたという説があり、「箋注倭名類聚抄※」にもその意見が見られます。「カパーラ」という言葉そのものの意味は、皿、鉢、頭蓋骨という意味なので、それがなぜ屋根を葺く材料のことをいうようになったのかは不明ですが、仏教の伝来と同時に瓦職人が来日し、その技術が伝わっていったことと関係するのでしょう。
※箋注倭名類聚抄(せんちゅうわみょうるいじゅしょう)…平安時代の辞書である倭名類聚抄(わみょうるいじゅしょう)に江戸時代の書誌学者狩谷棭斎(かりやえきさい)が注釈、校訂をつけたもの
「瓦」の語源にはほかにも説がいくつかあります。例えば平凡社世界大百科事典 第2版によると、亀甲の意味の「かはら」、あるいは、甲冑(かっちゅう)を表す「かはら」に由来するという説や、屋上の皮(かは)だから「瓦(かはら)」となったという説や、瓦は土を焼いて板に変えることから「変はる」が「かはる」、「かはら」に転訛(てんか)したという説もあるのだそう。
そんな多くの説のなかで最も有力とされるのが「瓦=カパーラが語源」という説。古代インド・アーリア語に属する言語であるサンスクリット語はほかにも仏教用語として日本に多く入ってきて、「僧」「卒塔婆」「盂蘭盆」など今も使われる言葉の源になっています。当て字をきっかけに、歴史の大きな流れを感じてみてはいかかでしょうか。
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