語源・由来|「当たり前」「奥ゆかしい」 言葉の変遷をたどる旅
海を渡ってきた言葉や、日本で昔から使われてきた言葉まで、現代に生き残る日本語のひとつひとつには思いがけない由来があるもの。今回は元をたどると漢語にいきつく「当たり前」と、源氏物語にも見られる「奥ゆかしい」のふたつの語源を探ります。
海を渡ってきた言葉や、日本で昔から使われてきた言葉まで、現代に生き残る日本語のひとつひとつには思いがけない由来があるもの。今回は元をたどると漢語にいきつく「当たり前」と、源氏物語にも見られる「奥ゆかしい」のふたつの語源を探ります。
「当たり前」
「当たり前」という言葉は、中国から伝わり、日本語として定着した漢語「当然」が由来といいます。「当然」に「当前」という字を当て、それを訓読みにして生まれたという説が一般的です。ほかには、漁や狩りなどの共同作業で一人当たりに分配される取り分を「当たり前」といい、分配分を受け取るのは当然だとして「当然」の意味を持つようになった、という説もあります。いずれにしても、「当然」という言葉とは切っても切り離せない関係です。
あらためて「当たり前」という言葉を紐解くと、「誰がどう考えてもそうあるべきだと思うこと、当然なこと」という意味で使われます。「当然」から生まれたことを思えば、ふたつの言葉は全く同じ意味であるかのよう。ですが、ひとつ、大きな違いがあるのです。
それは、「当たり前」はもうひとつ、「普通と変わっていないこと、ありふれていること、世間なみ」という意味を持つということ。「自分は当たり前の人間だ」とか「商売は当たり前にやっていたのでは成功しない」といった文で使われますが、これは「当然」にはない意味です。
漢語由来、当て字の訓読みから生まれた言葉は、違う意味も宿して、日本では日常会話に欠かせない言葉となっているのですね。
「奥ゆかしい」
奥ゆかしいという言葉には、「深みと品位があって、心がひかれる。深い心遣いが感じられて慕わしい。こまやかな心配りがみえて、ひきつけられる」という意味と、もうひとつ「心がひかれて、もっと見たい、聞きたい、知りたいと思う」という意味があります。
前者の意味で使われているのは、平安時代の文学を代表する『源氏物語』の中の「なかなかなまめかしう おくゆかしう 思ひやられ給(たま)ふ<賢木>」という一文。ここでの「おくゆかしう」は、洗練されていて上品だ、の意味で使われています。現代でも、「奥ゆかしいところがある人」といった使い方をしますね。
一方、後者の意味で使われているのは、平安時代の歴史物語『大鏡』に登場する「いつしか聞かまほしく、おくゆかしき心地するに(序)」という一文。「もっとよく知りたいと思う」の意味で使われています。現代では「奥ゆかしい」を「もっと知りたい」の意味で使うことはあまりありませんが、実は語源に近い使い方なのはこちらのほうなのです。
そもそも「ゆく」とは「行く」、これが形容詞形となったのが「ゆかし(行かし)」。つまり「ゆかし=行きたい」ということ。「奥ゆかしい」は一言でいえば「奥まで行きたい」ということであり、「心がひかれて、その先が、知りたい、見たい、聞きたい」、「奥の方へ心が誘われる」という気持ちを表現する言葉なのです。
「奥ゆかしい」という言葉には、見えない奥に深みを感じて心ひかれる、日本人の感性がよく表れているよう。日本語の美しさやおもしろさを教えてくれる言葉のひとつといえるのではないでしょうか。
ちなみに「ゆかし」だけでも、知りたい・見たい・聞きたい、または心ひかれる、という意味を持ちます。松尾芭蕉の有名な俳句に「山路来て何やらゆかしすみれ草」という一句がありますが、この「ゆかし」も「心ひかれる」という意味で使われています。
「奥ゆかしい」は「もっと知りたい」という意味から、今では「上品で、深い心遣い、こまやかな心配りがみえて慕わしい人」と、相手の感じのよさを表現する言葉として使われています。「当たり前」は「当然」の意味合いで使われる強いニュアンスの言葉ですが「世間並」という意味合いにも使われるようになっていったのが、おもしろいところです。
言葉は人々の生活のなかで生きて、変わっていくもの。言葉の語源と変遷をたどる旅は興味が尽きませんね。
関連する投稿
ゴールデンウィークから初夏にかけては、陽気に誘われて過ごしやすい時季です。そこで今回は、これまでご紹介してきた旅記事のなかで、「丸山千枚田」「奥入瀬渓流」「尾瀬国立公園」などの、新緑が美しい自然豊かな観光地や散策ルートをご紹介します。
キャッシュレス決済を利用する方が増えるなか、最も使用されているのがクレジットカード。しかし、これまでクレジットカードをあまり使用されていなかった方や、これからクレジットカードの使用を考えている方には分からないことも多いのではないでしょうか。そこで今回は、いまさら聞けないクレジットカードの使い方や、注意したいポイントについてご紹介します。
語源・由来|「お雑煮」「羽根つき」 正月にまつわるめでたい由来
季節ごとの習わしや行事食は多々あれど、中でもお正月にまつわるものは、多く現代に残っています。今は簡略化されてしまって、そもそもの由来に思いを馳せることは少なくなっているかもしれません。今回は「お雑煮」と「羽根つき」が始まった理由や、言葉の意味をご紹介します。
イベント事のマナー|年の前半の締めくくり「夏越の祓」で、後半も健やかに
6月の終わりに行われる「夏越の祓(なごしのはらえ)」は、半年分の穢れを祓って夏を迎え、残りの半年を健やかに過ごすための神事。日本各地の神社で行われ、基本的にどなたでも参列できます。今回は、年の前半の締めくくりである夏越の祓について、また、茅の輪(ちのわ)くぐりのふるまい方についてご紹介します。
散策|美しい渓流や苔に癒やされる川沿い散策「奥入瀬渓流」(青森県)
十和田八幡平国立公園(青森県)を代表する景勝地のひとつが「奥入瀬(おいらせ)渓流」です。十和田湖から流れ出る奥入瀬渓流は、国指定の特別名勝、天然記念物にも指定されています。四季折々の自然が満喫でき、遊歩道もしっかり整備されています。高村光太郎作の乙女の像でも知られる十和田湖と合わせての散策がおすすめで、ガイド付きのネイチャーツアーも開催されています。「星野リゾート奥入瀬渓流ホテル」で大人で優雅なリゾートも楽しめます。
最新の投稿
健康メニュー|ひと手間でぐっとおいしく!「醤油洗い」を試してみない?
青菜のおひたしや和え物の下ごしらえとして、和食に詳しい料理好きのあいだで知られている「醤油洗い」。実はこのひと手間は、魚や肉にも応用でき、料理の仕上がりをぐっと引き上げてくれます。今回は、醤油洗いの基本的な考え方と、なぜひと味違う仕上がりになるのか、その理由をご紹介します。
健康メニュー|おでんの塩分を抑えるには? 美味しくヘルシーに楽しむコツ
おでんは、冬のあたたかいメニューの定番です。寒い季節に欠かせない料理ですが、つゆでじっくり煮込むおでんは塩分量が気になるという方も多いかもしれません。今回は、美味しさを損なわずに塩分を抑えたおでん作りのコツをご紹介します。
健康メニュー|燻しても生のようなのはなぜ?「スモークサーモン」
スモークサーモンは、刺し身や焼き魚などとは異なる燻製特有の風味や香り、生に近いしっとりとした食感が人気の食材です。今回は、スモークサーモンが持つ独特の風味・食感の理由や含まれる栄養、普段の食事に活用できるおすすめの食べ方をご紹介します。
体があたたまる冬の定番メニュー鍋料理は、各家庭でも食卓にのぼることが多いものです。スーパーや通販では、カット・下ごしらえ済みの具材が揃った鍋セットが人気ですが、冷凍保存できる「冷凍鍋セット」は自作も可能です。今回は、冬にぜひ試していただきたい、自作の冷凍鍋セットの作り方をご紹介します。
健康習慣|「スロースクワット」軽い負荷・少ない時間で筋肉アップ!
新しい年になると、心機一転、「今年こそ運動不足を解消したい」と意気込む方も多いのではないでしょうか。でも激しい運動は続かないし、ケガも心配……。そんな方にこそおすすめしたいのがスロースクワット。軽い負荷・少ない回数でも筋肉にしっかり効く、効率的なトレーニング方法です。1セット1分未満でも継続すれば大きな効果につながります。
